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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
レコードに針を落とす。
…ドイツ女が唄う甘く気怠い愛の唄が流れ始める。
…いつか、街灯りの下で、再び会いましょう…。
昔みたいに…。
…別れた恋人に捧げる愛の唄だ…。
「随分、頽廃的な唄だな…」
潔癖で愛国心の強い伊織は凛々しい眉を顰める。
和葉は振り返って微笑む。
「ロマンチックな愛の唄だよ。
…別れても…いつかは必ず会えると願う恋人同士の唄だ」
窓から差し込む三日月のあえかな光が、和葉の人形のように整った白皙の美貌を照らす。
伊織が息を飲むのが見て取れた。
しなやかにその白く美しい手を差し伸べる。
「…僕と踊って、伊織」
伊織が咳払いしながら和葉に近づく。
「…俺はダンスは下手だぞ?」
「一緒に部屋で何度も踊ったじゃないか。
全然下手じゃない。
…さあ…」
手を取り合い、音楽に身を任せる。
「…お前は、ダンスが上手いな…」
「舞踏会や夜会で何度か踊ったくらいだよ」
「…誰と踊った?…女の子か?」
仏頂面で尋ねてくる様子が可笑しくて、吹き出す。
伊織は存外に嫉妬深かった。
「覚えてないよ。お祖母様に無理やり連れてこられた舞踏会だもの」
「…何を踊るんだ?舞踏会で」
「ワルツだよ。
…ワルツを踊ると、みんなぼうっとしちゃって大人しくなるから助かる」
不機嫌に伊織が睨む。
「タラシめ」
…付け加えるように尋ねる。
「…男とは、踊ってないだろうな…?」
伊織への愛おしさが込み上げる。
強く手を握り引き寄せ、その耳朶に囁きかけて唇を押し付けた。
「…男とは、君だけだ。
君以外とは一生踊らない。約束する」
…ドイツ女が唄う甘く気怠い愛の唄が流れ始める。
…いつか、街灯りの下で、再び会いましょう…。
昔みたいに…。
…別れた恋人に捧げる愛の唄だ…。
「随分、頽廃的な唄だな…」
潔癖で愛国心の強い伊織は凛々しい眉を顰める。
和葉は振り返って微笑む。
「ロマンチックな愛の唄だよ。
…別れても…いつかは必ず会えると願う恋人同士の唄だ」
窓から差し込む三日月のあえかな光が、和葉の人形のように整った白皙の美貌を照らす。
伊織が息を飲むのが見て取れた。
しなやかにその白く美しい手を差し伸べる。
「…僕と踊って、伊織」
伊織が咳払いしながら和葉に近づく。
「…俺はダンスは下手だぞ?」
「一緒に部屋で何度も踊ったじゃないか。
全然下手じゃない。
…さあ…」
手を取り合い、音楽に身を任せる。
「…お前は、ダンスが上手いな…」
「舞踏会や夜会で何度か踊ったくらいだよ」
「…誰と踊った?…女の子か?」
仏頂面で尋ねてくる様子が可笑しくて、吹き出す。
伊織は存外に嫉妬深かった。
「覚えてないよ。お祖母様に無理やり連れてこられた舞踏会だもの」
「…何を踊るんだ?舞踏会で」
「ワルツだよ。
…ワルツを踊ると、みんなぼうっとしちゃって大人しくなるから助かる」
不機嫌に伊織が睨む。
「タラシめ」
…付け加えるように尋ねる。
「…男とは、踊ってないだろうな…?」
伊織への愛おしさが込み上げる。
強く手を握り引き寄せ、その耳朶に囁きかけて唇を押し付けた。
「…男とは、君だけだ。
君以外とは一生踊らない。約束する」