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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
「…僕も伊織とワルツが踊りたい」
和葉は、暗闇の中でもきらきらと輝くような笑顔で頷いた。
…伊織はワルツも直ぐにマスターした。
元々、身体能力も学習能力も音楽センスもとても高い。
レコードは変わらずに愛の唄を奏でている。
…いつか街灯りの下で、再び会いましょう…。
昔みたいに…。
「…ねえ、伊織…」
「うん?」
温かく力強い伊織の手を感じながら、静かに語りかける。
「…もし、僕が死んでも…」
伊織の手がびくりと震え、そのまま痛いくらいに握りしめられた。
「よせ!縁起でもない!」
伊織の貌は怖いくらいに険しくなっていた。
和葉は宥めるように、優しく微笑った。
「…聞いて、伊織。
もし、僕が死んでも僕の魂は必ず君のもとに還るよ。
…靖国ではなく、君のもとに還る。
だから、哀しまないで。約束して」
返事はなかった。
代わりに広く逞しい胸に抱き込まれる。
「そんな約束はしたくない。
お前が死ぬことなど、想像もしたくない。
お前が死んだ世界で、生きて行くことなど想像も出来ない。
…俺が死んでも、お前には生きていて欲しい…!」
無骨な男の生のままの言葉だった。
これから、現実の戦争に直面する。
士官学校の生徒は、死への覚悟をも厳しく教え込まれている。
死に直面しても怖気付くことなく、誇りを持って死に行くようにと。
伊織は自分の死より、和葉の死を恐れているのだ。
一人遺される孤独を、恐れているのだ。
和葉は、自分の肩口に貌を埋める伊織の髪を優しく撫でる。
「ねえ、伊織。僕は死なないよ。伊織と一緒に生き続ける。約束する」
…だから…と、青年の貌を引き寄せ、そっと口づける。
「今を大切に生きよう。
…ワルツを踊ろう、伊織」
「…和葉…!」
…いつか、街灯りの下で再び会いましょう。
昔みたいに…。
甘く切ない愛の唄が聴こえる。
…この恋人同士は、再び巡り会えたのだろうか…。
和葉の美しい琥珀色の瞳を見つめながら、伊織は告げる。
「…愛している。和葉…。俺が愛するひとは生涯お前だけだ」
「僕もだよ。愛しているよ、伊織。
誰よりも、君だけを…」
愛おしい恋人の言葉を惜しむように、伊織がその唇を奪う。
窓から差し込む三日月の光が、踊る二人を清かに照らす。
…永遠のような…一瞬のような煌めきを纏った恋人同士のワルツを優しく包み込むように…。
和葉は、暗闇の中でもきらきらと輝くような笑顔で頷いた。
…伊織はワルツも直ぐにマスターした。
元々、身体能力も学習能力も音楽センスもとても高い。
レコードは変わらずに愛の唄を奏でている。
…いつか街灯りの下で、再び会いましょう…。
昔みたいに…。
「…ねえ、伊織…」
「うん?」
温かく力強い伊織の手を感じながら、静かに語りかける。
「…もし、僕が死んでも…」
伊織の手がびくりと震え、そのまま痛いくらいに握りしめられた。
「よせ!縁起でもない!」
伊織の貌は怖いくらいに険しくなっていた。
和葉は宥めるように、優しく微笑った。
「…聞いて、伊織。
もし、僕が死んでも僕の魂は必ず君のもとに還るよ。
…靖国ではなく、君のもとに還る。
だから、哀しまないで。約束して」
返事はなかった。
代わりに広く逞しい胸に抱き込まれる。
「そんな約束はしたくない。
お前が死ぬことなど、想像もしたくない。
お前が死んだ世界で、生きて行くことなど想像も出来ない。
…俺が死んでも、お前には生きていて欲しい…!」
無骨な男の生のままの言葉だった。
これから、現実の戦争に直面する。
士官学校の生徒は、死への覚悟をも厳しく教え込まれている。
死に直面しても怖気付くことなく、誇りを持って死に行くようにと。
伊織は自分の死より、和葉の死を恐れているのだ。
一人遺される孤独を、恐れているのだ。
和葉は、自分の肩口に貌を埋める伊織の髪を優しく撫でる。
「ねえ、伊織。僕は死なないよ。伊織と一緒に生き続ける。約束する」
…だから…と、青年の貌を引き寄せ、そっと口づける。
「今を大切に生きよう。
…ワルツを踊ろう、伊織」
「…和葉…!」
…いつか、街灯りの下で再び会いましょう。
昔みたいに…。
甘く切ない愛の唄が聴こえる。
…この恋人同士は、再び巡り会えたのだろうか…。
和葉の美しい琥珀色の瞳を見つめながら、伊織は告げる。
「…愛している。和葉…。俺が愛するひとは生涯お前だけだ」
「僕もだよ。愛しているよ、伊織。
誰よりも、君だけを…」
愛おしい恋人の言葉を惜しむように、伊織がその唇を奪う。
窓から差し込む三日月の光が、踊る二人を清かに照らす。
…永遠のような…一瞬のような煌めきを纏った恋人同士のワルツを優しく包み込むように…。