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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
…いつか、街灯りの下で再び会いましょう。
昔みたいに…。
蓄音機から流れる甘い愛の唄…。
繰り返し何度も聴きすぎて、擦り切れたレコードだ。
…伊織はグラスのブランデーを煽ると、引き出しから一葉の古びた写真を取り出した。
白い海軍の軍服を着た和葉と、航空部隊の軍服を着た自分が肩を抱き合いながら笑って映っている写真だ。
入隊後、呉で撮った写真…。
二人で映っている唯一の写真だ。
「…和葉…。お前は綺麗なまま、逝ってしまったな…」
優しく語りかける。
「…俺はすっかり汚れ果て…年老いたというのに…」
…あの日、和葉が乗った軍艦が太平洋の大海原へと進んでゆくのを、伊織は偵察機の機上から見送った。
甲板から伊織の偵察機を見上げ、眩しげに手を振る和葉の白い手と、彫像のような美貌に浮かぶ温かな笑顔を昨日のことのように思いだす。
伊織は和葉だけに分かるように偵察機を旋回させ、陸上へと戻った。
和葉の軍艦が、ゆっくりと水平線へと消えてゆくのを確認しながら…。
…その軍艦が敵機の爆撃を受け、太平洋上に沈没したとの電報を受けたのは、翌朝のことだった…。
昔みたいに…。
蓄音機から流れる甘い愛の唄…。
繰り返し何度も聴きすぎて、擦り切れたレコードだ。
…伊織はグラスのブランデーを煽ると、引き出しから一葉の古びた写真を取り出した。
白い海軍の軍服を着た和葉と、航空部隊の軍服を着た自分が肩を抱き合いながら笑って映っている写真だ。
入隊後、呉で撮った写真…。
二人で映っている唯一の写真だ。
「…和葉…。お前は綺麗なまま、逝ってしまったな…」
優しく語りかける。
「…俺はすっかり汚れ果て…年老いたというのに…」
…あの日、和葉が乗った軍艦が太平洋の大海原へと進んでゆくのを、伊織は偵察機の機上から見送った。
甲板から伊織の偵察機を見上げ、眩しげに手を振る和葉の白い手と、彫像のような美貌に浮かぶ温かな笑顔を昨日のことのように思いだす。
伊織は和葉だけに分かるように偵察機を旋回させ、陸上へと戻った。
和葉の軍艦が、ゆっくりと水平線へと消えてゆくのを確認しながら…。
…その軍艦が敵機の爆撃を受け、太平洋上に沈没したとの電報を受けたのは、翌朝のことだった…。