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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
篠宮和葉は、名門貴族篠宮伯爵の令息であった。
幼年士官学校の生徒に貴族の子弟はそう珍しくはない。
軍部や内務省は、貴族の子弟が士官学校に入学し、いずれは各軍の将校となることを、推進していた。
ノーブレスオブリージュの精神、貴族が平民のために犠牲的精神を払い、平民を率先して守ることは貴族の美徳とされた。
何より、貴族の将校が増えることは軍部の威厳と品位が増し、入隊希望者が増えるという思惑があった。
現首相が貴族出身ということもあり、貴族の優秀有望な青年の幼年士官学校への誘致が積極的に行われたのだ。

しかし、実際はお坊っちゃま育ちのうらなりのような子弟が入学し、軍事教練の激しさや厳しさに三日と保たずに逃げ出すか…そうでなくとも密かに特別扱いされた緩い教練を無気力にこなす生徒が精々で、とても生徒から羨望の眼差しなど向けられはしなかったのだ。

…だが、篠宮和葉は違った。
首席で入学した伊織と僅かの差で次席になったという成績の優秀さもさることながら、その凜とした気品に満ちた佇まい…何より美の神が挙って造形したとしか思えない麗しい美貌は、生徒はもとより教官達をも虜にしたのだ。
文武両道の優秀な成績を収め、しかも類い稀なる美貌を誇るのに、和葉はとても人懐っこく明朗快活でしかも分け隔てなく他人に優しかった。
貴族出身の生徒は皆、とっつきづらく高慢な性格の者が多い中、和葉は上級生には礼を尽くし、同級生には屈託無く接し、下級生には優しく対応した。
だから彼の評判は頗る良く、誰もが挙って我れ先にと彼と親しくなりたがった。


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