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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
自転車は春の爽やかな風を切りながら、軽やかに進む。
「景色、見てる?」
環が尋ねる。
怖くて足元ばかり見ていたのを見透かされたようで、恥ずかしい。
笙子はゆっくりと貌を上げた。
…目の前に広がる桜色に覆われた印象画のような風景に一瞬息を飲む。
「わあ…綺麗…!」
思わずため息混じりの歓声を上げる。
…そこは見事に満開に咲き揃う枝垂れ桜の並木道であった。
薄紅色の桜の花弁がそよ風に舞い散り、道はまるで桜色の絨毯を敷き詰めたようであった。
「…ちょっといいだろ?俺の一番のお気に入り。
誰にもまだ教えてないんだ。
…感謝しろよ?」
ペダルを漕ぎながら、後ろを振り向きにやりと笑う。
その冴え冴えとした眼差しの中に岩倉と良く似た優しい色を感じ取り、胸の奥が温かくなる。
「…はい!」
微笑みながら頷くと、環は眩しげに目を逸らし前を向いた。
「大沢池に連れていってやる。
…そこも桜が綺麗だ。それからあだし野念仏寺、常寂光院、野宮神社…最後は渡月橋だ。
…この辺は寺と神社しかないよ。あんた、尼になるわけじゃないのにな」
笙子は笑い出した。
「本当ですね。…でも、楽しいです。私、自転車に乗ったのは初めてです。
…しかも男性の後ろに乗せていただくなんて」
「へえ…。…千紘とは?」
「千紘さんとは、最近お目にかかったのです。
環さんのお母様にご紹介していただいて…私の…カウンセリングをして下さったのです…」
少し言い淀む様子に、環はわざと明るく言い放つ。
「あ、そ。別にあんた達の馴れ初めなんて興味ないからどうでもいいよ。
…また坂道だ。落ちないように捕まってろよ。
あ、あと、スカート捲れないようにな」
笙子が息を呑み、身体を縮めながら環にしがみついた。
背中に密着した笙子の身体の温もりと柔らかさにやや胸を騒つかせながら、環はペダルに力を込めた。
「景色、見てる?」
環が尋ねる。
怖くて足元ばかり見ていたのを見透かされたようで、恥ずかしい。
笙子はゆっくりと貌を上げた。
…目の前に広がる桜色に覆われた印象画のような風景に一瞬息を飲む。
「わあ…綺麗…!」
思わずため息混じりの歓声を上げる。
…そこは見事に満開に咲き揃う枝垂れ桜の並木道であった。
薄紅色の桜の花弁がそよ風に舞い散り、道はまるで桜色の絨毯を敷き詰めたようであった。
「…ちょっといいだろ?俺の一番のお気に入り。
誰にもまだ教えてないんだ。
…感謝しろよ?」
ペダルを漕ぎながら、後ろを振り向きにやりと笑う。
その冴え冴えとした眼差しの中に岩倉と良く似た優しい色を感じ取り、胸の奥が温かくなる。
「…はい!」
微笑みながら頷くと、環は眩しげに目を逸らし前を向いた。
「大沢池に連れていってやる。
…そこも桜が綺麗だ。それからあだし野念仏寺、常寂光院、野宮神社…最後は渡月橋だ。
…この辺は寺と神社しかないよ。あんた、尼になるわけじゃないのにな」
笙子は笑い出した。
「本当ですね。…でも、楽しいです。私、自転車に乗ったのは初めてです。
…しかも男性の後ろに乗せていただくなんて」
「へえ…。…千紘とは?」
「千紘さんとは、最近お目にかかったのです。
環さんのお母様にご紹介していただいて…私の…カウンセリングをして下さったのです…」
少し言い淀む様子に、環はわざと明るく言い放つ。
「あ、そ。別にあんた達の馴れ初めなんて興味ないからどうでもいいよ。
…また坂道だ。落ちないように捕まってろよ。
あ、あと、スカート捲れないようにな」
笙子が息を呑み、身体を縮めながら環にしがみついた。
背中に密着した笙子の身体の温もりと柔らかさにやや胸を騒つかせながら、環はペダルに力を込めた。