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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
笙子がすべてを話し終えた時、陽は傾きかけ客間にはもの哀しいような鬱金色の夕陽が差し掛けていた。

「…そんな…なんて酷い神父なんだ…!」
胸が張り裂けるほどの憤りが環を襲う。

笙子は幼少期に肉親すべてを洪水で亡くしていた。
そして預けられた孤児院の神父により、暴行を働かれたのだ。
幸か不幸か、最近までその事件前後の記憶は失われていた。
笙子を引き取った養父母は、笙子が過去の忌まわしい記憶で彼女が苦しむことを恐れ、その事件を封印し決して口にしなかった。

…しかしある日突然、その過去の記憶が断片的に蘇り、笙子は苦しんだ。
屋敷に引きこもり、夜毎悪夢に怯えた。
…その笙子に治療を施したのが千紘だったのだ。
彼の献身的な治療により、笙子は救われた。

「…それなのに…私は、千紘さんとその悪魔を重ね合わせてしまうのです。
同じ男性ということだけで…千紘さんに恐怖心を抱いてしまうのです。
…私は…私は千紘さんと身も心も愛し合いたいのに…それが出来ない…!
どうしても…あの悪夢が蘇ってしまうのです…。
そしてそのことが、私よりももっと千紘さんを苦しめているのです。…私は…私はどうしたら良いのか…」
「…笙子ちゃん…」

環は言葉を失った。
笙子の口から出た生々しい告白は、彼女の千紘への真摯な想いを物語っていた。
…如何に笙子が千紘を愛しているか…環はまざまざと思い知らされた。

「笙子ちゃんは、本当に千紘を愛しているんだね…」
…本当の愛は、喜びだけではなく苦しみも伴うのだと、環は初めて知ったのだ。
愛は美しく幸せなものだけではないのだ。
苦しく苦く…辛いものにも愛は宿るのだと…。

…俺は、何も分かってはいなかったんだな…。
環は心の中で独りごちた。


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