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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「…笙子ちゃん、俺さ…」
環が笙子に語りかけた時、縁側の廊下の襖が開き、華やかな声が聞こえた。
「あらまあ…!可愛らしい組み合わせだこと、お邪魔だったかしら?」
声の主を見た途端、環の顔が強張った。
「伽倻子様!いつこちらへ?」
笙子は驚いて立ち上がった。
「先ほど汽車で着いたわ。
吉野の桜がどうしても見たくなって…。やっぱり桜は京都でなくてはね」
きらきらと光の眩さを集めたようなオーラを振りまきながら、伽倻子…環の母親は現れた。
琥珀色のドレスに春らしいミルク色の上質なカシミヤのコート、臙脂色のつば広の帽子にはチュールのベールがかかり、そのまま欧州の社交界のお茶会に参加出来そうな華やかな出で立ちだ。
「笙子様、新婚生活はいかが?一ノ瀬のお母様がそれはそれは寂しがっておいででしたわよ」
笙子に朗らかに話しかけながら、傍らで硬い表情をしている環を振り返る。
「環さんもお元気そうね。良かったわ。
…電話をしても出て下さらないし、お手紙を書いてもなしのつぶてなんだから…。あら…」
環の前のキャンバスと画材道具に眼を遣り、貌を輝かせた。
「また絵を描かれているのね?良かったわ!
…まあ…!笙子様の絵を描かれているの?お上手だこと…」
キャンバスを覗き込もうとした伽倻子を邪険に振り払い、環は乱暴に立ち上がった。
「見るなよ。なんだよ…いきなり来て…。
俺のことなんかもう構うなって言ってるだろ⁈」
そう貌を背けて言い放つと、荒々しく部屋を出て行ってしまった。
「環さん!待って!」
慌てて後を追おうとする笙子を静かに止める。
「よろしいのよ、笙子様」
「でも…伽倻子様…」
振り返る笙子の瞳に、見たこともないほどに寂しげな伽倻子の貌が映し出された。
伽倻子は笙子を見て、少し哀しげに笑った。
「…私、あの子に嫌われているの…」
環が笙子に語りかけた時、縁側の廊下の襖が開き、華やかな声が聞こえた。
「あらまあ…!可愛らしい組み合わせだこと、お邪魔だったかしら?」
声の主を見た途端、環の顔が強張った。
「伽倻子様!いつこちらへ?」
笙子は驚いて立ち上がった。
「先ほど汽車で着いたわ。
吉野の桜がどうしても見たくなって…。やっぱり桜は京都でなくてはね」
きらきらと光の眩さを集めたようなオーラを振りまきながら、伽倻子…環の母親は現れた。
琥珀色のドレスに春らしいミルク色の上質なカシミヤのコート、臙脂色のつば広の帽子にはチュールのベールがかかり、そのまま欧州の社交界のお茶会に参加出来そうな華やかな出で立ちだ。
「笙子様、新婚生活はいかが?一ノ瀬のお母様がそれはそれは寂しがっておいででしたわよ」
笙子に朗らかに話しかけながら、傍らで硬い表情をしている環を振り返る。
「環さんもお元気そうね。良かったわ。
…電話をしても出て下さらないし、お手紙を書いてもなしのつぶてなんだから…。あら…」
環の前のキャンバスと画材道具に眼を遣り、貌を輝かせた。
「また絵を描かれているのね?良かったわ!
…まあ…!笙子様の絵を描かれているの?お上手だこと…」
キャンバスを覗き込もうとした伽倻子を邪険に振り払い、環は乱暴に立ち上がった。
「見るなよ。なんだよ…いきなり来て…。
俺のことなんかもう構うなって言ってるだろ⁈」
そう貌を背けて言い放つと、荒々しく部屋を出て行ってしまった。
「環さん!待って!」
慌てて後を追おうとする笙子を静かに止める。
「よろしいのよ、笙子様」
「でも…伽倻子様…」
振り返る笙子の瞳に、見たこともないほどに寂しげな伽倻子の貌が映し出された。
伽倻子は笙子を見て、少し哀しげに笑った。
「…私、あの子に嫌われているの…」