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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
岩倉を迎えに行きたいと女中のミツに頼むと、ミツは驚いたように眼を見張り、きょろきょろと辺りを見渡した。
「先ほど、旦那様のお車が着く音がいたしましたけれど…おうちにいらっしゃいませんか?」

確かにガレージに車は停まっていた。
だが、家の中に岩倉の気配はなかった。
「どこかにお出かけになられたんですやろか…」
首を傾げているミツに
「ありがとう。お探ししてみるわ」
と声をかけ離れに戻ろうとすると、背後から声が聞こえた。

「渡月橋や」
「え?」
「あの子がふらりと考えごとしにいくんは決まって渡月さんやねん」
篤子がにっこり笑っていた。
「…お義母様…」
「…あの子は小さな頃から手ぇかからん子でなあ。
我儘言うたりしたこともなかったねん。
言いたいことや悩みは一人胸に抱えてるような子でなあ。
何か悩んどるやろ?て聞いても…大丈夫や、お母ちゃま。何もあらへん…て、親に心配かけないように笑ってるような子やったんよ。
…ほんで、考えごとするときは決まって渡月橋に行ってたんよ。
なんや、あの川の流れ見てると安心する言うてなあ…。
だから今日もきっとそうや」
「お義母様…」

篤子は実の母親のような愛情の籠った手つきで、笙子の髪を優しく撫でる。
「…千紘のこと、頼むなあ…。
千紘は笙子さんのこと、大好きやねん。
好きやから、少し臆病になってんねん。
だから…あんたからどやしてやってや。
好きなら離したらあかんやろ…てなあ」

温かい…岩倉に良く似た篤子の優しい瞳に、笙子は涙を流した。
そうして、泣きながら輝くような笑顔で頷いた。
「はい。お義母様…!」


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