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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
慣れない下駄で渡月橋に着く頃は、陽はすっかり沈み、辺りには薄墨色の夕闇がベールのように柔らかに広がっていた。
人影を探しながら、橋の袂に近づく。

…と、橋の欄干にもたれ、遠くを見つめる岩倉が目に入った。
安堵の余りため息を吐く。
すらりと高い長身のその背中には、胸が締め付けられるような孤独の影があった。
…甘狂おしいような、情動が笙子を襲う。

端正な横顔に浮かんだ寂しげな色を確かめるように、そっと近づく。
下駄の音に我に返った岩倉が振り返り、笙子を認めて眼鏡の奥の瞳を見開く。
「笙子さん!どうされた…」

気がつくと、笙子は子どものように岩倉に抱きついていた。
離されないように力を込めてしがみつく。
…温かな…岩倉の体温と共に、男の愛用している香水が薫り笙子の心に染み渡る。
「…愛しています…愛しています…愛しています…愛して…」
今はこの言葉しか、出てこなかった。
その言葉すらも思いが昂り、詰まってしまう。
そんな自分が情けない。
次の言葉を探した時に、岩倉の腕が笙子を息がつまるほどに強く抱きしめた。
「…笙子さん…!私もです。貴女を愛している。誰よりも…」
愛おしい男の何より嬉しい言葉に、涙ぐみながら見上げる。
…胸にある言葉は、たったひとつだった。
「千紘さん。私を抱いてください…」
…このひとと、ひとつになりたい…。
…このひとと、生きてゆきたい…。

全く新しい人生を…。
このひとと二人で…。

…差し出した笙子の白い手は、しっかりと岩倉の大きな手に握りしめられた。




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