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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
二人で食事を済ませ、湯殿で湯を使う。
今夜は一人で支度するから…と、笙子は志津を先に休ませた。
髪を乾かし、夜着の着付けを気にしながら寝室に入ると、岩倉が縁側に座り庭を眺めていた。

…笙子が大好きなしなやかで清潔な美しい背中を見せて…。
静かに近づき、その背中に寄り添う。
岩倉はふっと微笑を漏らした。
「伽倻子さんに何かお話になったのですか?」
「…環さんの本当のお気持ちを少しお知らせしただけです。環さんは本当はお母様が大好きなのですもの。
…あの…千紘さん…」
言い淀む笙子に、岩倉が振り返る。
「どうしました?」
「…千紘さんは…伽倻子さんのことを…」
口籠る笙子に優しく笑う。
「…好きでした。私の初恋でした」
…血の繋がった叔母だけれど歳が近く、いつも眩しいくらいに美しく華やかで…憧れのような初恋でした…。
そう続けた岩倉に胸が切なく痛んだ。
少年の岩倉を魅了した伽倻子はどれだけ美しく彼の瞳に映ったのだろうと考えると、嫉ましく羨ましく…たまらない気持ちになるのだ。
「…伽倻子様が羨ましい…。千紘さんの初恋の方だなんて…ずるい…」
小さくその胸を叩く。
その愛らしさに思わず微笑みを漏らしながら、力強くその華奢な身体を引き寄せる。
「やきもちを焼いて下さるのですか?嬉しいですね。
…昔の話です。ただ密かに憧れて…それだけです。
伽倻子さんは東京にお嫁に行かれましたし…」

…お別れやね。ちいちゃん。
うちのこと、忘れんといてなあ…。
そう言ってまだ少年の岩倉の唇にそっとあえかなキスを残して去っていった…。
華やかで眩しくて甘酸っぱい思い出だけを、岩倉の胸に残していったのだ。

「私より笙子さんは?…貴女の初恋のお話をお聞きしたいです」
いきなり話の矛先を変えられ、笙子は一瞬戸惑う。
しかし直ぐに、少し怒ったように呟いた。
「…私の初恋は…千紘さんに決まっているではありませんか…」
「え?」
思わず声を上げて驚く岩倉に、そっぽを向く。
「…そんなに驚かれなくても…。
私の初恋は…千紘さんです。…それなのに千紘さんは…」
笙子の愛らしい嫉妬に、愛おしさが泉のように溢れてゆく。
岩倉は黙って笙子を抱き上げ、寝室に向かった。
「…続きは寝室で伺います」
凛々しい男の言葉に、笙子は白い頸を花の色に染めて男の胸の中で頷いた。
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