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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「笙子さん、よろしいですか?」
支度部屋の客間の外から岩倉の声がかかる。

「…はい。千紘さん」
やや緊張した笙子の声がそれに応える。
気を利かせた志津は、そっと出て二人だけにする。

岩倉は中に入ると思わず目を見張った。

…笙子は純白のウェディングドレス姿だった。
一ノ瀬の両親が、笙子の花嫁姿を是非見たいと、急遽知り合いの神戸のデザイナーにウェディングドレスを依頼し、それが漸く間に合ったのだ。

新品のフランス産のレースは、軍国色が色濃くなった今、正に金や銀よりも貴重品であった。
そのレースは笙子の美しく結い上げた髪に飾られた真珠のティアラに付けられ裾よりはるかに長く尾を引き、笙子をお伽の国の姫君のように見せていた。

真珠色のシルクタフタのドレスは、シンプルがゆえに笙子の稀有な美しさを引き立てていた。
ほっそりとした美しいラインを描く首筋と優美な肩はミルク色に輝き、華奢な腰にはたっぷりとしたシルクのサッシュが結ばれている。

小さな貌には薄化粧が施され、頬は薔薇色に輝き、唇は露を含んだ紅薔薇のようであった。

何よりも潤んだ瞳を水晶のように輝かせ、笙子は岩倉を見上げた。
「…千紘さん…」
岩倉は、はっと我に帰り…ぎこちなく囁いた。
「…綺麗だ…笙子さん…。こんなにも美しいひとを、僕は見たことがない…」
はにかんだように俯く笙子の肩に手を掛け、その形の良い顎を引き寄せる。
「…笙子さん…。愛している…」
「…千紘さん…」

唇が触れ合う刹那、無遠慮な音を立てて障子が開いた。

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