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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題

「結婚しやした。」

「ぶふぉっ?!」

 兄弟子は、飲んでいた水を盛大に吹き出しました。

「私、耳がおかしくなったのかしら……今、なんて?」
「先日、ローゼルお嬢様と夫婦になりやした。事情が有って、まだ公にゃあしてませんけど」
「アンタと?お嬢様が?結婚っ?!首とかお払い箱とか捨てられたとかじゃなくてっ?!」
「へい」
「お嬢様正気なの?アンタ、脅したりしてない?」
「してねーですよ」

 ローゼルが正気かどうかは未だに疑わしく思う事が無くもないものの、脅したりしてはおりません。どちらかと言うと脅されたのですが、兄弟子に一言言うと百言くらい返って来そうなので、口にするのは止めました。

「じゃあアンタ、毎日毎日毎日疚しい夢見てうなされて悶々としながら守ってた純潔を、崇め奉ってたあのお嬢様に捧」
「皆まで言うの止めて下せえ!結婚したって言ってんですよ?!当然でしょうが!!」
「へーえ……下ネタは口ばっかで一生あのまんまかと思ってたけど、頑張ったのねー、アンタも。とりあえず、おめでとう」
「……ありがとーごぜーやす」

 ビスカスはかつて自分が振った兄弟子からの祝福の言葉に、複雑な気持ちで頭を下げました。

「まあ、今回は、それを師匠の墓前にご報告すんのも兼ねてですね……」
「それにしては、嬉しそうじゃ無いわね」
「う」
「ほんとにその為に来たんなら、気持ち悪い位にやにやして、手合わせ中でも惚気まくるでしょ。あらやだ!そしたら私、気力が萎えて負けたかもよ?!」
「……ですかねー……」
「どうしたの?ボケたの?色ボケ?頭大丈夫?あ、昔から大丈夫じゃなかったわ、頭ん中お嬢様しか詰まってなかったわー」

 兄弟子にはあらゆる弱みを握られて居る上に、手合わせでも口でも勝てた事は有りません。先代亡き後ここを束ねている人間に、隠し事など出来る訳は無いのです。
 ビスカスは項垂れて、溜め息を吐きました。

「……実は、家出半分で、出て来ちまいやした……」
「はあ?新婚なのに家出?!」
「へえ……」
「お嬢様じゃ立たなくなったの?!まあ大変っ!治すの手伝ってあげようか?」
「ちげーやす!!違ぇやすからっ!!お気遣い、御無用ですっ!!!!」

 手合わせで気力が漲った筈のビスカスは、疲れ果てて地面に座り込みました。
 そして、出て来る前の晩に起こった事を、ぽつぽつ思い返しました。
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