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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題
「……幻滅なんざ、されてねーです」
(『謝らなくたって良いことよ?私、昨日みたいなビスカスも好きよ』)
半泣きで謝り倒しながら散々な目に遭わせた後始末をしていたビスカスを、ローゼルは抱き締めて言ったのです。
「お嬢様ぁ、そんな下らねー事ぐれぇでコロコロ態度を変えちまう様な、ひ弱なお人じゃねーんです」
(『お願い。私の前では、我慢しないで?たまにで良いから、そういうビスカスも見せて欲しいの』)
「けど、だからって……お嬢様のお慈悲に甘えてあんな事して良いって法なんざ、有りっこねーですよ……」
「アンタ、本当に、馬鹿なの?」
俯くビスカスのつむじを見下ろしている兄弟子は、もはや呆れかえり過ぎて無表情になっておりました。
「馬鹿……ですか?」
「徹頭徹尾糞の役にも立たないノロケをどうも大変ご馳走様」
「や、惚気じゃなくてですね?俺ぁほんとに悩んでやして……」
「もう帰れ。」
「え!?」
「お嬢様のがよっぽど男前だわよ、この意気地無し!いつまでもぐずぐず逃げてんじゃねーわよ!」
「ううっ……」
一喝されて、ビスカスはたじろぎました。
「大体、そのお嬢様は、家の後継者になるんでしょ?それならいつかはアンタのか」
「分かってやす」
ビスカスは、兄弟子の言葉をぴしりと鋭く遮りました。
言葉を封じられ思わず黙った兄弟子は一瞬の後、にやっと笑って口笛を吹きました。
「ほらご覧なさい。やれば出来んじゃないの」
「……いえ」
「いつまでも遠慮して手ぇ抜いてんじゃねーわよ。アンタが甘く見てる程、周りの人間は無能じゃないのよ」
「俺ぁんな事ぁ」
「後継者たるお嬢様の伴侶として生きてくんでしょ?出し惜しみしてる余裕なんか有るの?舐めてんじゃねーわよ、全力出しても足りねーわ」
「……や」
ビスカスは、溜め息を吐きました。
目上の人間や女性に非礼な真似をする事が、ビスカスは心底苦手です。その遠因の一部には、ローゼルへの過剰な思慕と崇拝も有りました。
ビスカスにとっては当然だったローゼルへの敬愛は、今後のローゼルの為にはならないかもしれません。ビスカスは、それを認めざるを得なくなりました。
兄弟子は、見ようによっては慈母の様に見えなくもない温かい微笑みを浮かべました。
「今度は、お嬢様連れてらっしゃいな。先代のお墓に報告するのは、その時までお預けね」