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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題

「……んあ……?」

 その朝は、寝起きが良いビスカスとしては珍しく、とてもゆっくりやって来ました。

 重い目蓋をどうにか開けると、辺りは既に明るい様です。
 いつもより遅いお目覚めでは有りますが、ローゼルの仕事は午後からです。早起きしなくてはいけない訳では有りません。
 ビスカスは目の前の艶やかな髪に顔を埋め、柔らかい体の温もりを堪能しました。目覚めてすぐにこの世で一番麗しい女を目にする至福にも、この頃やっと慣れて来ました。
 冷たかった耳に急に血が上ってじんじんする事にすら、無上の幸せを感じます。

(……ずっと……は無理でも、もうちっとだけ、このまんまでいてーですねえ……)

 ビスカスはだらしなく顔をほころばせながら、ローゼルの首の下に回した手をそっと動かしてみました。動きに支障は有りません。痺れを免れたらしい事にほっとして、すやすや眠っているローゼルを抱き締め直……そうとして、ふと、いつもと何かが違うことに気付きました。

(……なんだ、こりゃ……)

 咲き初めた花片か極上のなめし革か、という肌触りの筈のローゼルの背中の感触が、いつもと激しく違います。
 悪い予感を感じながら恐る恐る確かめてみて、ビスカスは打ちのめされました。

「なん……ひっ!?」

 普段は絹より滑らかな背中に何かがこびり付いて、悲惨な事になっています。何かが何で有るのかは、予想が付くので考えたくは有りません。
 その上ローゼルの首筋に、どこかにぶつけたのでは無さそうな内出血らしきものが有りました。

「……歯形っ……?!」

 うなじの辺りに点々と付いている内出血は、何かの動物が齧った痕に見えました。

(んな噛み痕をお嬢様に付ける様な生き物……って……!)

「ん……ビスカス?」
「リュリュっ!?」

 恐ろしい想像に踏み込みそうになった時、ローゼルが眠たげな声とともに身じろぎしました。
 ふぁ、と世にも可愛い欠伸を一つしたローゼルは、くるりと向きを変えて伸び上がり、ビスカスの鼻先に口づけました。

「おはよ……」
「おっはようごぜぇ、やっ?!」
「……ふふっ……寝坊しちゃった?……もう、すっかり明るいことね?」

 ビスカスは横になっているのにも関わらず、卒倒しそうになりました。
 とろけそうな笑顔を向けてくるローゼルの胸元に、無数の紅い花片の様な内出血が散っていたのです。
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