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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題
*
「ちょ!兄さ……師範っ!!」
領主夫妻との謁見を終えたビスカスは、即座に兄弟子に食って掛かりました。
「やだ!なんかアンタに師範って呼ばれるの、慣れなーい!兄さんで良いわよ?」
「兄さん!!あのっ、ここって、もしかしてっ」
「んー?ここ?あ、やっと気が付いた?」
兄弟子はうふふっと笑いました。
「今まで気付かないなんて、一体何で小さな頭を一杯にしてたのかしらー?……そう!ここは、アンタがでろでろに溺愛してるお嬢様のお従兄弟様の、ご・実・家!」
「うぇええっやっぱりぃいっ?!」
見ようによってはお茶目と言えなくもない目配せをされながらあっけらかんと言い放たれて、ビスカスは今度こそ遠慮なく叫びました。
「もーう!だから誘ってあげたんじゃなーい!お嬢様命のアンタを意味なくこんなとこまで連れて来る訳無いでしょ!」
「だからって……でも……どうしろって……」
「アンタ、言ってたじゃないの。お従兄弟様の事を慮って、まだ仮婚礼なんですー、って」
「そりゃ、そーですけどっ!」
ビスカスは婚約の異議申し立てをする以前から、リアンには目の敵にされて居ました。頼んだところでどうにかなるとも思えません。
明らかに腰が引けているビスカスを見て、兄弟子は唇を尖らせました。
「あー!潔くなーい!逃げちゃうかもだから言わないで連れて来たの、正解だった!」
そう言った途端に雰囲気をがらりと変え、野生の熊さえ恐れて逃げ出したという逸話の有る、世間の噂の通りの殺気を纏った師範の佇まいになりました。
「……お嬢様に、一生惚れ続けて生きてくんだろ?出来る事ぁ何でもして許しを乞うぐれぇの誠意見せろやゴルァ」
「ひっ!」
兄弟子に睨まれ凄まれて、脅えない者が居るでしょうか。
少なくとも不意を衝かれたビスカスは、兄弟子の思惑通り、震え上がりました。
「師範、兄者。何なさってるんですか?」
声を掛けられてそちらを見ると、この仕事を共にしてすっかり仲良くなった、弟弟子がおりました。
「ああ、ちょっと話をな……何か言伝てか?」
ビスカスとは打ち解けた弟弟子ですが、兄弟子の正体には気付いておりません。兄弟子が、いつ気が付くかと面白半分で、隠し続けているからです。
真面目な弟弟子が気付いた時にどんなに衝撃を受けるだろうと、ビスカスはいつも可哀想になりました。