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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題
*
「っご無沙汰致しておりますっ」
「……」
「恙無くっ、お元気そうでっ」
「……」
うんともすんとも言わない相手は、気怠げに肘掛けに片肘を着いたまま、お行儀悪くも絵に描いた様に美しく、流れる様にお茶を取り上げて飲みました。
同行の二人と離れて別室に連れてこられたビスカスは、全身カチカチになっておりました。
火が焚かれている室内とはいえ、冬の北国です。
生粋の北方育ちの人ならともかく、温暖な地で育ったビスカスは寒いくらいな筈なのですが、何故か汗にまみれております。
「その節は、大変失礼かつ、申し訳無い事を……」
「心にもない事言うの、止めたら?」
滑らかな磁器の様な肌の上の薄紅色の唇は辛辣な言葉を吐き、氷を思わせる宝石の様な瞳はじろりとビスカスを睨みました。
「心にもって」
「じゃあ、取り下げる?」
「それは」
以前のビスカスであれば、否と即答していたでしょう。しかし、自分の中の隠れた望みを恐れる今のビスカスは、答えることを躊躇いました。
返事に迷っていると、かちゃりと扉が開きました。
「お待たせしたわね。……意地悪してる子は、居ないかしら?」
「マリア!!」
「え」
ビスカスは目の前の人物の豹変に、驚きました。
とりつく島も無い態度は一瞬で消え、蕩けそうなきらきらとした笑みで椅子から立ち上がって入ってきた女性の手から菓子鉢を受け取り、自分の隣に座らせています。
それはまるで、この地の厳しい冬が過ぎて、草木や花が一斉に芽吹いて咲き乱れる春の訪れを思わせました。
「まあ、リアン。お客様の前だわよ?」
「客じゃないだろ。少なくとも、僕は呼んでない」
「じゃあ、私のお客様ね。ビスカス、先程は失礼したわね」
「いえ……マリア様には、長い事ご無沙汰致しておりまして……こちらこそ、大変失礼を」
ビスカスはへどもどしつつまた大汗をかきながら、挨拶にもならない挨拶を口にしました。
「良いのよ、気にしてないわ!ビスカスが私に気が付く訳が無いのは、分かってたから」
マリアはまごつくビスカスを見て、陽気にころころ笑いました。
「だって、小さいときからずーっと、いつもロゼしか見てなかったものね?」
マリアにーー麗氷の鈴蘭の娘であるローゼルの従姉妹に大らかに微笑まれたビスカスは、冷気の中でも湯気が出そうにかあっと赤くなりました。