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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題
*
「……ただいま戻りやした……」
「ビスカスっ!?」
ビスカスが館に帰り着いたのは、もう少しで出掛けてからひと月になろうかと言う頃でした。
表から入り辛くて使用人が使う裏口からこそこそ中に入り、ちょうどローゼルの年嵩の方の侍女と出くわしたのです。
「もとい、若旦那様!お帰りなさいませ!どこほっつき歩いてらっしゃったんです?!」
この侍女とは、長年の付き合いです。遠慮会釈無く畳み掛ける様にまくし立てられて、ビスカスは言葉に詰まりました。
「や……ちょっと、その……えっと、ロー」
「とりあえず、旦那様のお部屋に行くわよ。ローゼル様の事は、そこで聞いて頂戴」
一番気になって居て一番会いたくて一番謝りたい妻の話は、尋ねる前に相手にぴしゃりと遮られました。
「え」
「旦那様から、若旦那様が帰って来たらすぐに連れて来る様にって、お達しが出てるのよ」
「ええっ!?」
領主様に会ったら確実に、まず怒られる事でしょう。それから何故出て行ったまま帰って来なかったかを聞かれ、事によっては正式な婚礼に差し支える様な苦言を頂戴するかもしれません。
しかし、この状況は、ビスカスが自分で招いた事です。
ローゼルに先に怒られ、経緯を説明し、文句を言われたかったのですが、家長が先だと言われればその通りです。
ビスカスは一度溜め息を吐くと肚を決め、領主様の部屋に足を向けました。
*
「今まで何処に行っていたんだ?予定より大幅に長く不在にした様だが」
取り次ぎを頼んだところ、領主様の部屋で、タンムも交えて三人で話すという事になりました。
領主様が開口一番口にしたのは、説教でなく問い掛けでした。
妻以外の誰かからどこに何をしに行ったか聞かれたら、経緯は飛ばして結果だけを答える様にと、兄弟子に言われておりました。
『アンタを私達が引っ張り回したなんて報告されちゃあ、今後の仕事に差し支えるかもしれないじゃない?』
兄弟子はそう言って、見ようによってはお茶目に見えなくもない目配せをしました。実際は、ビスカスが責められない様にと考えてくれたのでしょう。
「修行先への挨拶は、早々に済んだんだろう?帰りが伸びると連絡を貰った後どうして居たのか、私も聞きたいな」
タンムにもそう言われたビスカスは、兄弟子の命令を思い出しながら、口を開きました。