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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第9章 甘え方の問題
「……俺の居ねぇ間に、何かっ……」
ビスカスは、血の気が引きました。
柊屋敷と聞いて、自分が怪我をした時の事を思い出したのです。あの時は、実際に刃物を向けられたスグリではなく、ローゼルが狙われていたのかもしれないのです。
その件は、未だ解決しておりませんでした。
「心配は要らないよ」
安全とは言い切れないのに、自分の勝手で妻を一人にした事を悔やんで唇を噛み締めて居ると、宥める様な声がしました。
「お前の怪我みたいに動けないとか、寝込んでるとかの大事じゃない。たまたまあちらで調子を崩して、倒れてね。スグリ嬢が、ここで静養しないかと誘って下さったんだ。自分も不慣れで心細いから、ロゼが滞在してくれたら有り難いって、ね」
「そうでしたか」
「それに、本来ここよりあちらの方が、不届きな事をするのは難しい筈なんだ。あの時は、例外中の例外だったーー今は却って前より厳重になってるだろう」
「……そうですね」
ビスカスはタンムの話に、まずは一安心致しました。領主様は義理と実の二人の息子の遣り取りを眺め、微かに微笑みました。
「あちらに出掛けるには、もう遅い。お前も疲れているだろう。今日は休んで、明日起きたら迎えに行くと良い」
しかし。
柊屋敷で静養しているという事は、体調は万全では無いという事です。不調の最大の原因は、恐らく自分が長く不在にしたせいでしょう。
戻って来たからには一刻も早くローゼルに会いたくて、ビスカスは居ても立っても居られなくなりました。
「領主様。ご迷惑なのぁ承知ですが、今から、あちらに伺って来やす」
「しかし……」
難色を示す領主様とは対照的に、タンムはくっくっと笑いました。
「言うと思っていたよ。止めたらまた家出しますよ、父上。……会えなかろうが入れなかろうが、行くんだろ?」
「へえ、まあ……」
どっちみち一人で部屋に戻っても、安らぐどころか、一睡も出来ないでしょう。それならば柊屋敷の門の外の方が、よっぽど安眠出来そうです。
「仕方無いな。くれぐれも、失礼の無い様に」
「へい!ありがとうごぜぇやす!」
「ビスカス?」
今にも出て行こうとすると、タンムが笑いながら声を掛けました。
「へえっ!」
「ロゼを頼んだぞ。サクナはスグリ嬢の件で、お前に恩が有るからな。夜中に叩き起こした位じゃ、失礼とも何とも思わないさ」