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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
*
「今度は、お嬢様連れてらっしゃいな。先代のお墓に報告するのは、その時までお預けね」
「へえ……」
兄弟子にそう言われたビスカスは、曖昧に頷きました。まだ自分への不信感と迷いが、どこかに燻っています。
とりあえずは、帰るに当たって兄弟子に御礼を言おうと、口を開いた時。
「師範」
一人のがっしりした若者が、兄弟子に声を掛けました。
「ああ、お帰り」
「……お客様でしたか。大変失礼致しました。では、また後程」
「客じゃ無い。お前にとっては兄弟子に当たる奴だな」
(ふうん……相変わらず、生きの良さそーな若いのが居んだぁねー……)
ビスカスは兄弟子の口調が変わった事や見た目から、目の前の若者の、おおよその立場や人となり等を推測しました。
「兄弟子……ですか?」
「兄弟子……って言うか、先輩ですかね?」
訝しげに言う若者に、ビスカスは余所行きの口調で答えました。
ここでは正式に兄弟子・弟弟子と呼ぶのは、同時期に在籍している者だけという慣例が有ります。ビスカスが去ってから入ったのなら、厳密には弟弟子ではありません。
「ビスカスです。どうぞよしなに」
「……こちらこそ、宜しく」
若者は頭を下げる直前に、微かに鼻で笑いました。
しかし、ビスカスはそんな事には慣れっこです。取り立てて気にも留めませんでした。
「では、兄……師範。色々、有り難う御座いました。俺は、これで」
「……ビスカス。」
「はい?」
「帰り掛けている所悪い。こいつと、手合わせしてやってくれないか?」
「……え。」
(ちょ、兄さん、何なんですか!?俺にさっさとお嬢様んとこに帰れって言ったなアンタでしょ?!)
「今、お前の様な奴が居ないんだ。お前の後輩にとって、貴重な機会だ。頼む」
「ぐ」
兄弟子にそこまで言われて頼まれては、断れません。
「……かしこまりました。私で良ければ」
「おお!引き受けてくれるか、有り難い!礼を言うぞ……お前も、良いな」
「……ええ」
兄弟子のにこにこ顔と裏腹に、若者は、なんでコイツなんかにと言いたげな、不満そうな顔をしています。
(ああああ……面倒くせぇ事、頼まれちまったねー)
ビスカスは、さっさと手合わせを終える事にしました。