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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
「あの子、仲間内では敵無しなのよ。ちょっと天狗になってるから近々へし折っとかなきゃって思ってたんだけど、適任が居なかったのよね」

 兄弟子は困り顔で溜め息を吐きました。

「今、アンタみたいなちっこい奴って居ないのよ。ちっこくて絶対勝てそうだったのに、手合わせしたらボロ負けしましたゴメンナサイ、って目に遭わせられる奴」
「……酷ぇ言われ様な気もしますけど、どんな形でもお役に立てたんなら、良かったです。惨敗したらどーしよーかと」
「謙遜すんの止めなさーい。分かってたでしょ、勝てるって」
「そーですけど……俺の見立てが錆び付いてるかもしれねーじゃねーですか」
「でも、勝ったでしょ?読みと小狡さは健在ねー……もっとも、」

 ビスカスを見た兄弟子は、ふっと目を和ませました。

「アンタみたいのが居ないってのは、今に限った事じゃ無いわね。ちっさいのにここに来て、途中で逃げずに修行を終えて、正面から堂々と真っ当に出てったのって、アンタくらいかも」
「お褒めに与り、光栄ですけど……さっきから、ちっこいとかちっさいとか言うの止めて下せーよ。小さい、です」

「おんなじじゃないの。……とにかく。アンタ、お嬢様に捨てられたら、戻って来なさーい」
「有り難ぇお言葉ですが、お嬢様が居なけりゃ、こちらに世話んなる意味もねーです。もし捨てられたら、別な仕事しやす」
「ほんっと、お嬢様馬鹿ねえ」
「へえ、馬鹿です。お世話んなりやした。……次は」

 次は妻を連れて来ます、と言おうとした所で。

「師範!」
「ん?……ああ、何だ?」

 先程の若者より幾分年嵩の男が兄弟子の近くに寄って来て、何やら耳打ち致しました。

「……ビスカス」
「へい?」
「頼みが有る。帰る前に一仕事付き合ってくれないか?」
 
   *

「そん時話が持ち込まれた仕事ってのが、運悪く俺に打って付けだったんでさあ。しかも、結構難しい仕事だったんで……手伝えって、頼まれちまったんですよ」
「……師範様、とっても良い方みたいだけど……ちょっとだけ、酷いわ」

 もたれていた胸から身を起こしたローゼルは、むっとした顔でビスカスを見上げました。

「んー?どーしてです?」

 喜怒哀楽を素直に表すスグリと違い、むっとしたローゼルというのは、誰もが見られる物では有りません。ビスカスは、貴重で可愛いむくれた頬っぺに口づけました。
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