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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
「叔母様に、伺ってみたかしら?」
膝の上で固く握られたリアンの手にマリアは柔らかく手を重ね、微笑んで訊ねました。
「……聞いた。」
「そう。御印も、見せて頂いて?」
「ああ。」
「どうだった?」
リアンはマリアをじろっと見たあとビスカスを睨み、床に視線をやりました。
「……本物だった。」
「そう!それは、良かったこと!!」
マリアはリアンの手をぽんぽんと軽く叩いて、にっこり笑って見せました。
「……で?お前の望みは、何?」
「へ?」
「あれを取り返した見返りに、何が欲しいの?……もしかして、あれが家から消えてた事を言い触らさない見返りも要る?」
「は?」
「リアン!」
マリアの制止にも関わらず、リアンの言葉は続きました。
「なんでわざわざ、外に頼んだんだ……家の中の誰かに頼んでれば、こんな、弱みに付け込まれる様な事」
「はあ?」
「リアン!!何てこと言うの!!家の中で何とかしようとしてもどうにもならなかったから、ビスカスのお仲間の方々に頼んだんでしょう?!」
「は!何目当てか、分かったもんじゃ無いよ」
「リアン!!」
「……何を仰っているのかは、分かりかねますが」
リアンの小馬鹿にした様な言葉をマリアがたしなめるやり取りの間に、ひやりとする空気が入り込みました。
「報酬は、既に代表が頂いております。それ以外を要求する事は、御座いません」
話をしているのは、ビスカスでしたが。
動くと切れる刃物を当てられて居るかの様な冷たさが、部屋を支配しておりました。
リアンもマリアも一言も発せず、そちらを見る事も出来ません。
「依頼主様のご依頼の内容を漏らす事も、一切御座いません。……もしそう言った事をする輩が身内に居たら、二度と依頼主様にご迷惑をお掛けしない様に、対処する事になっております」
部屋の中は暖かい筈なのに冷気を感じて、リアンは指先が冷たくなりました。
(……これは……)
マリアは、狩りで油断して命を落とし掛けた時の事を思い出しました。
安全な場所から出ずに何かを得ようとする者は、生命を賭した闘いの末に日々の平穏を得ている者とは、圧倒的な差が有るのです。
野生の獣に素手で挑んでも、勝ち目など有りません。