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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
「……これは……水、ですか……?」
不思議な物を目にして、弟弟子は誰に聞かせるともなく呟きました。
箱に入った品物を取り返した際に中を見たのは、物が何かを知っている兄弟子一人だけでした。ビスカスも弟弟子も、現物は今初めて見たのです。
「いや。違ぇだろ、布に包まってんだから……氷漬けか?」
「それも、溶けますよね?……じゃあ、ガラス?」
「お前ら、何言ってんだ。そもそも、こんな小さい百合が有る訳ゃ無いだろうが」
「……ですよねー?でも……」
兄弟子に有る訳は無いと言われましたが、透明な雫の中に閉じ込められている物は、どう見ても、百合です。
ただ、その百合は、色は抜けておりました。羽化したばかりの蝉の羽根の様に透明な百合が、数枚の葉と一つの蕾を持つ長い茎の先に、二つ咲いておりました。
「不思議でしょう?本物の百合みたいですよね?」
「本物、みたい?……ってこたぁ、やっぱり本物の百合じゃねーって事ですね?」
店主は兄弟子の手から箱を受け取って、中の布包みごと掌の上に乗せ、ビスカスの前に差し出しました。
「なかなか無い機会です。良かったら、触って調べてみて下さい」
「触っていいんですかい?!」
「もちろん。装飾品は、身に付ける物ですよ?触っただけでどうこうなっては困ります。それに、真贋の判定の為には、どうせ触らないといけないんですから」
「んじゃ、お言葉に甘えて、失礼……あ!」
ビスカスは、そっと百合の雫の表面に触れ、小さく声を上げました。
「水晶……!」
「そうです。良くお分かりですね」
「……水晶の装飾品を、触った事が有んでさあ」
『水晶は、いつまでも冷たいのよ』
ビスカスの頭の中には、ローゼルの言葉が思い出されておりました。
『ガラスはすぐ温かくなるけど、水晶は、ひんやりするの……ほらね?だから、この痣を隠すのにも冷やすのにも、ちょうど良いと思ったのだけど……お前には、見つかっちゃった』
初床の時、ローゼルが腕輪を外しながらそう言ってはにかんで笑った事が、鮮やかに思い出されます。