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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
「これが水晶である時点で、本物の可能性は高くなりますね。すり替えられた偽物は、おそらくガラスだったでしょう。水晶は、加工が難しいんですよ。……ひっくり返して、裏にして見てみて下さい」
そう言われて水晶を差し出されたビスカスは、店主の手からそれを受け取って、ひっくり返しました。表から見ていた時には気がつきませんでしたが、水晶には金色の縁と、吊り下げる為の金具が付いておりました。
そして、百合の花は……と言うと。
「……あ!!」
「百合の秘密が、お分かりになりましたか?」
裏から見ると、百合は表と同じ百合には見えませんでした。何やら百合らしき形がぼんやりと霞んで描かれてはおりますが、本物らしくは見えません。
ビスカスは思わず、もう一度表にひっくり返しました。表から見ると、やはり小さくて透明な百合が、そのまま入れられている様に見えます。
「これは、裏彫りって言うんですよ」
「裏彫り?彫って有るんですかい?……裏も表も、つるっとしてる様に見えますけど」
店主はビスカスの手から水晶を受け取って、どうぞ、と弟弟子に渡しました。
「表を見た時に立体に見える様に裏から水晶を彫った後、水晶で蓋をして有るんです。蓋に水晶では無く色の付いた素材を使う事も有りますし、水晶を彫った後に色を付けたりする事も有るんですが……これは、全て透明のまま、水晶の透明感を損なわない様に作られています。金で縁留めがしてありますが、表からはほとんど見えなかったでしょう?」
「……へい。」
兄弟子が観察を終えても首を捻っている弟弟子から水晶を受け取って、表から裏へとひっくり返して、しげしげと眺めました。
「鎖に吊す為の金具も、必要の無いときは折れて裏に収まる様になっています。これを作った職人は、皆さんが先程驚かれた様にーー雫の中に花が閉じ込められて咲いているかの様に、見せたかったんでしょうね」
店主は兄弟子から返ってきた水晶を受け取ると、にっこりと笑いました。