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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇

「いかがでしたか?素晴らしい品でしょう?」
「ええ……」
「これは、本物です」

 店主は頷くと、傍らから柔らかそうな象牙色の布を取り上げて、百合の水晶を丁寧に拭いました。

「今はもう、これだけの物を作れる職人は居ません。というか、当時でも稀有な腕の持ち主だったと思います。伝説の名工ですね」
「へえ……」
「この百合は、代表作の一つです。……とはいえ、私も実際にこれを目にするのは、初めてですけど」

 水晶を拭き終えた店主は、元通り布に包んで、兄弟子が持って来た箱に収めました。

「初めて見んのに、本物かどうか分かるんですかい?」
「ええ。同じ名工の手による、違う作品を幾つか見たことが有りますので……売買されなくても、手入れを頼まれたりする事が有るんですよ」
「ふーん……」
「せっかくですから、今有る裏彫りの品を見てみますか?」

 ビスカスが、熱心に見ていたからでしょうか。
 店主は微笑んで三人に背を向けて、壁に作り付けの引き出しに歩み寄りました。

「……お前……商魂逞しいなー」
「目の保養だよ、目の保養。お前もお仲間さんも、いつも殺伐とした光景しか見てないだろ?」

 兄弟子は苦笑して、店主は軽口を返しましたが。
 他の二人はいざ知らず、ビスカスに限っては殺伐どころか、世に名の高い極上の生ける水晶を、誰よりも近くで毎日長年眺める恩恵に与って居ます。
 逆に、その為に美しい物に対して他の二人よりも興味を持った……のかもしれません。
 店主は一つの引き出しの鍵を開け、引き出しごと取り出して、三人の目の前の台に置きました。

「……うっわー……」
「沢山有るんですね……」
「うん。売る程有るわぁー……」

「よく有るのは動物とか植物、大きいものだと風景画なんかも有りますね。彩色してある物が、多いでしょう?色を付ける事でも、立体的に見せる事が出来るんです」

 説明しながら、店主は濃い色の天鵞絨の内張りの上に並べられた、色付きの絵画の様な水晶をいくつか指し示しました。

「……逆に言うと、無色のままで立体的に見せるには、彫りが全てです。他と比べると、先程の百合がいかに優れた品かという事が、分かろうというものですね」

「へーぇ……成る程ねぇー」
「どれも、本物みたいですね……」
「すげーですねー……ん?」

 ふと一つの小さな石が、ビスカスの目に留まりました。
 
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