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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
小さな丸い雫の中に、小指の爪程の大きさの、一輪の薔薇が咲いています。
『……あげるわ。要らないから』
小さな小さな薔薇を見て、ビスカスはローゼルに貰った白薔薇を思い出しました。
奥様が亡くなって部屋に籠もっていたローゼルが庭に久々に出て来た時に、ビスカスは一輪の白薔薇を貰いました。
元々は自分が切り損ねて花首だけにしてしまった薔薇でしたが、ローゼルから渡されたそれを捨てられず、ビスカスはこっそり押し花に致しました。厚みの有る萼の部分が上手く出来なくて、今では花片が何枚か遺っているだけです。それらも色は薄茶に変わり、香りもとっくに飛んでいました。
しかし、その数枚の花片は、ひっそりと本に挟まって、他のビスカスの荷物と共にローゼルの部屋に運ばれて、棚に収められておりました。
「どちらか、気になる物が有りますか?」
そんな事を思い出しながら、薔薇をじっと見ていたからでしょう。店主がビスカスに尋ねました。
「えーと……この、薔薇の……」
「ああ!お目が高いですね」
店主はその小さな雫を、指先でそっと摘みました。
「これは、百合を手掛けた名工の一番弟子と言われた職人の作です」
「へえ……」
「名工は絵画に近い品も多く作りましたが、弟子の方はもう少し身近な、小さな題材を得意としていました。その中でも、花は、師弟のどちらにも共通していた題材です」
掌にころんと乗せられた水晶を、ビスカスはまじまじと見詰めました。
「こいつも、すげー見事ですねー……」
「でしょう?でも、残念な事に」
水晶を掌から取り上げると、店主はビスカスの手をひっくり返して、指の上に乗せて見せました。ビスカスの指と比べると、小指の爪程の水晶は、いかにも小さく見えました。
「これだけ小さいと指輪かハットピンにする位がせいぜいですし、そういう物でも大きく派手で見栄えする品を求める方が多いので、まだ売れずに残って居るのです。でも、残っているのが不思議な位の逸品ですよ」
「へえ……」
指の上の雫の中に咲く薔薇を眺めていたビスカスの胸に、何とも言い難い気持ちが湧き上がりました。
「……あのー……」
「はい?」
「こいつを……いえ、こちらを譲って頂く事は、出来るんでしょうか?」
「えっ?!」
ビスカスの問い掛けに、店主も含めた店の中の全員が、驚きの声を上げました。