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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
『いーのいーの、今回の報酬使って払っとくだけだから!!どーせ、アンタの取り分から払うんだし!』
この、薔薇を閉じ込めた雫の様な水晶には、小さくとも品物相応の、かなりの値が付いておりました。
実はビスカスには、品代に足りるだけの持ち合わせが有りませんでした。元々、挨拶をしたら帰るつもりだったのです。余計な金を持って出て来ては居りません。
「譲って欲しい」と頼んだ後でその事に気が付いて青くなったビスカスの肩を、兄弟子はにやにやしながら叩きました。そして店主とビスカスに、自分が石の代金を代わりに払うと告げたのです。
『私らは、今現金は要らないのよ?だって、個人で仕事を請け負ったんじゃ無いんだもの。今回の報酬は、アンタの取り分と、ウチの組織の取り分な訳よ。アンタの取り分だけじゃあ、お代の支払いにはちょーっと足りないけど、それは次に会うまで貸しにしといてあ・げ・る!思い切って大枚叩いたそれで飾ったアンタご自慢のお嬢様を、ちゃんと奥様として、近々連れてらっしゃいね!』
ローゼルも薔薇の印の水晶を持っているかもしれないと思ったときに、この薔薇の雫を店に返す方が良いのではないかと、ビスカスは一瞬怯みました。
しかし、ローゼルが確実にそれを持っているかどうかは分かりませんでしたし、兄弟子の心遣いを無駄にしたくも有りませんでした。それに何より、自分が初めてこの水晶を見た時に感じた気持ちを、ローゼルに贈りたかったのです。
「……こんなにちっさい薔薇ですけども、俺にとっちゃあすげぇ大事なもんになっちまった薔薇なんでさあ。俺の、一世一代の贈り物です」
ビスカスは一旦水晶をきゅっと握ると、ローゼルの方に差し出して、掌を開きました。
「……リュリュを飾るにゃあ、不足かもしれねぇ品ですが……受け取ってやって下さいやせんか?」
一世一代の贈り物についての一世一代の告白には、すぐには返事が戻って来ませんでした。
「…………ビスカス。」
「……なんですかい?」
「あなた、私を何だと思っているの?」
「……え?」
問い掛けの返事は、何故か問い掛けで返されました。
答え難い問い掛けを口にしたローゼルは、ビスカスの胸から赤く染まった顔を上げ、目元は上目遣いで怒らせて、頬はぷうっと膨らませておりました。