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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第10章 しずくの薔薇
   *

「……これ、どうするのが良いかしら?」

 ローゼルはビスカスよりも早く服を着終えて髪も梳き終えて、鏡台の椅子に座って水晶を手の上で遊ばせておりました。

 水晶がローゼルの物になり、口づけを交わした二人は、それが次第に深く濃くなって行くのを止められませんでした。口づけに徐々に愛撫が混ざり始め吐息が甘くなりはじめてやっと、ここが自分達の部屋では無い事を、ビスカスが思い出しました。
 結局、余所のお宅での朝にこれ以上はまずかろうという事になり、二人は強引に帰り支度を整える事にしたのです。

「そーですねー。石屋が言うにゃあ、指輪はどうかって事でしたけど……」

『贈っても差し支え無いご関係なら、指輪に仕立てるのがお勧めですよ』
『差し支え?』
『女性にとって指輪は特別な意味のある装身具です。奥様なら、問題無いと思いますが……それに、着けるご本人の承諾が無いと作れません。指に合わせますからね』

 諸事情により服を着るまでにいつもの数倍時間を掛けざるを得なかったビスカスは、店主の話を思い出しながらローゼルの椅子の後ろに向かいました。

「……もし指輪がお気に召さない様なら、ピンでも何でも……なんなら石っころのまんまでも、リュリュに持っててさえ頂けりゃあ、俺ぁ充ぶふうっ?!」
「……ビスカス。」
「なんれふかっ?!」
「あなたからの贈り物を、石のままになんか、しないわよ!」

 ローゼルは片手で水晶を持ったまま振り向いて、空いた片手でビスカスの口をむにっと摘まみました。
 あんなに熱く誓ったと言うのに、もう元の控え目過ぎるビスカスに戻って居ます。ローゼルは思わずムッとしてビスカスに当たった自分と、一歩引く癖が抜けないビスカスの両方の変わらなさ加減に、はーっと溜め息を吐きました。

「……しようがないわね……」
「ふへっ?!」
「こんなビスカスも、大好きなんだもの……」
「な」

 急に摘ままれ、急に離され、急に引っぱられて急に口づけられながら、「こんな」自分とは「どんな」自分なのだろう、とビスカスは思いました、が。

「これ、指輪にしたいわ」

 聞く暇もなくローゼルは、もう自分に背を向けて、石の話に移ってしまっておりました。

「……良んですかい?」
「ええ。指輪なら、いつでも見られるから」

 髪を結いながら尋ねたビスカスに、ローゼルは鏡越しに答えました。
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