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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題

   *

「……この部屋……だよなー……」

 ビスカスは、花嫁の部屋の扉の前に立ち、緊張の余り固唾を飲みました。

 この地の風習で、結婚式の当日は、既に共寝をしていたとしても、花嫁は別室で休む事になっています。支度を整え終えた後、お互いが顔を合わせるのです。

(この向こうに、リュリュが居んだよな……)


「ロゼに会うのは、後にするよ。おはようの挨拶をして来たら良い」

 タンムはそう言ってビスカスだけをこの部屋に送り出し、自分は親族の迎えに出ると言って去って行きました。
 扉を叩こうとして拳を握ったビスカスは、それが細かく震えているのに気付きました。
 手を下ろし、目を閉じて、ふーっと一つ溜め息を吐いて。

「……お嬢様……リュリュ……ローゼル……」

 囁く様な小さな声で、愛する女の……今日の主役である花嫁の、今まで辿った幾つかの呼び名を呼びました。
 呼び終えて口の中で砂糖菓子の様に転がすと、どの名前にもそれぞれ忘れがたい思い出が有り、どの名も愛おしく響きます。
 しばらくして、ビスカスは目を開けて、震えの止まった手でコツコツと扉を叩きました。

「……失礼致しやす……」

 キィ、と僅かな軋みを乗せて扉が開き、中に入ると。

「おはようございます。」
「っわっ!!」

 目の前に居た人影から不意打ちの様に、朝の挨拶が飛んで来ました。
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