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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題
「……失礼しやーす……おはよーごぜーやーす……」
ビスカスは小声で挨拶しながら、部屋に入りました。
部屋の中には、浅い春の日差しが柔らかに射し込んでいます。淡い朝の陽を束ねて集めた様に、ひときわ輝いている場所が有りました。
「……ビスカス」
「……っ……」
はにかんだ甘い声が、耳を素通りしてしまう程。
ビスカスは、固まりました。
衣装には、見覚えが有りました。滑らかで美しい曲線を描く体をぴったり包んでいる細かく刺繍が散らされた光沢の有る乳色の絹地も、薄衣として羽織っている朝露に濡れた蜘蛛の糸の様な繊細なレースも、二人で一緒に選んだのですから、見覚えが有るのは当然です。
もちろん、ローゼルを見た事も、数え切れないくらい御座います。
着飾ったローゼルだけでなく、寝起きのローゼルも、怒っているローゼルも、笑っているローゼルも、艶っぽいローゼルも、生まれたての赤ん坊の頃から今日に至るまで、あらゆるローゼルを見て来ています。
ローゼル自身がローゼルを見ることは鏡に映さない限り出来ないのですから、ビスカス以上に様々なローゼルを見た事のある者は、この世には居ないと言えましょう……けれど。
今、目の前の光の中に居て、まるで自らが光を放っている様に美しく輝かしいローゼルは、今までに見たことも無ければ、想像したことも有りませんでした。
「……ビスカス?」
「…………っ」
ビスカスは呆然としたまま、右手で思いっ切り頬っぺたを抓りました。
「どうしたの?!」
「や……」
思わず立ち上がったローゼルに、ビスカスは頬を擦りながら呟きました。
「……夢見てんじゃねーかな、って……」
「馬鹿ね!痕になってしまうじゃないの」
ローゼルは慌てて手を伸ばして、手のひらでビスカスの抓ったところをふんわりと包みました。
「ひゃっ!!」
「何よ」
「……いや……夢じゃねーんだな、って……」
ビスカスはそう言うと、何故か眉を寄せて難しい顔つきになりました。