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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題

「……リュリュ?どうしやした?」
「……どうもしやしないわっ」

(……あ。もしかして……)

 ビスカスはこの段になってやっと、ローゼルの様子に気が付きました。
 さっきからほんの少しご機嫌が斜めなのは、妬いてくれているのかもしれません。
 ローゼルの様子を改めて窺うと、目を伏せ頬を染めて口をつぐんでいる胸の上で、きらきらと光が瞬きました。

 それは、透明な水晶の中に本物の薔薇を閉じ込めた様に見える、首飾りでした。
 ビスカスは、これを今までに三度、目にした事が有りました。

 ビスカスが贈った、これと揃いの様によく似た石を指輪に仕立てて貰う様に、出入りの宝石屋に頼んだ時。
 それが出来上がって来た日の夜。
 それから、昨日眠りにつく前におやすみの挨拶をしに行った時の、三回です。
 
 ローゼルがこれを人前で身に付けるのは、今日が初めてです。
 以前から結婚の時に初めて身に付けると決めていた様ですが、従兄弟のリアンの持っている飾り物が盗まれるという事件が起こったと聞かされた為に、人目に触れさせる事に一層慎重になっておりました。

 首元を飾る水晶細工の環の先で気高く優しく咲いている薔薇の花は、ローゼルの様でも有り、ローゼルの母親である亡くなった奥様の様でも有りました。

『まあまあ、リュリュったら!』

 きらきらと輝く水晶の薔薇は、まるで焼き餅を焼いているローゼルを見て、奥様がくすくすと笑っている様でした。

『この子を好きで居てくれて、ありがとう……リュリュを宜しく頼むわね、ビスカス』

 ビスカスの中に、笑い出したい様な幸福な気持ちと、泣きたい様な切ない気持ちが、同時に沸き上がりました。軽く鼻を鳴らしてそれを押し込めると、ビスカスはローゼルの手をとんとんと宥める様に撫でました。
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