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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題

「ええ。そうね」

 大奥様は、傍らの小さなテーブルに置かれたベルを取り、ちりりんと鳴らしました。

「失礼致します、大奥様」
「この人を、別室で休ませてあげて頂戴」
「畏まりました」

 入室して来た家令は、ビスカスから奥方様を受け取ろうとしましたが、支え切れずにふらつきました。
 ビスカスは、椅子の上で自分で自分を抱く様にして座っているローゼルに、ちらりと目をやりました。ローゼルが薄く笑って頷いたのに目礼を返すと、大奥様にも小さく会釈を致しました。

「……申し訳御座いません、少し外させて頂きます。すぐ戻りますんで」

 ビスカスは奥方様をひょいと抱えると、家令と共にお辞儀して、一旦広間を出て行きました。


「……お見苦しい所をお見せして、失礼致しました。結婚の許可を得ようという者が、いつの間にか二組になってしまいましたよ……異議申し立ても、行われてしまった様な物ね」
「私は気にしませんよ、大奥様。婚姻を結ぶ迄には、色々な事が起こる物でしょう?」

 リアンはビスカスの出て行った方にちらと目をやると、くすりと笑いました。
 かつてローゼルと婚約していてビスカスから異議申し立てを受けたリアンは、既に幸福な結婚をしております。反対する理由は、もはやどこにも有りません。

「二人だけで結婚するのではなく、式に家族や親族も参列するのは、皆がそれぞれ納得してより幸せになる為です……そうですよね?」
「有り難う、リアン」

 大奥様とリアンは、目を合わせて微笑みました。

「私達は……」

 リアンの言葉を聞いたミラは、ローゼルの方を見やりながら、静かに口を開きました。

「私は、家を代表して、ロゼ姉様を祝う為に参りました。それが果たせれば、他は全て瑣末な事です」
「ミラ、ありがとう」

 ローゼルは椅子の上に身を起こし、心からの笑顔を向けてくれて居るミラに、ほっとした様に微笑み返しました。

 異議申し立てと聞いた若奥様は、僅かに身を固くはしたものの、何も口にしませんでした。長兄は安堵して、妻の背を優しく撫でました。

 タンムは異議申し立てが有れば聞く側に居りましたので、これで申し立てる可能性の有る者全てが、意志の確認を終えた事になります。
 奥方様以外の列席者からは、異議の申し立ては、有りませんでした。
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