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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題
「……もうお気になさらないで、お父様」
「ローゼル」
踊りは最後の振りに入っておりました。
家族が嫁入りする娘の気持ちを確かめ終えていよいよ娘が嫁ぐ事になり、娘を引き止めてみたり送り出そうとしてみたりする、別離の前に家族も娘も揺れ動くという場面です。
「……私も、もう、あれこれ気に病むのは止めますわ」
義母に言われた事とは少し違いますが、ローゼルは公の場で振る舞う時に、この家の娘として水晶の薔薇として相応しいかどうか考える癖が、体に染み付いて居ます。それは時には無意識に、自分の気持ちよりも優先されておりました。
また、母を亡くした後、喜んだり楽しんだりする自分に罪悪感を持った事が有りましたが、その気持ちも完全に消え去ってはおりません。長兄と若奥様の境遇についても、止むを得ない事では有りますが、結婚を手放しで喜べない要素の一つではありました。
(……でも)
ローゼルは踊りの次のお相手として立っているビスカスの方をちらりと見て、ほんの一瞬目を閉じました。
「私……お義母様だけでなく、誰にも遠慮せずに、幸せになります」
「ローゼル」
領主様の目が、僅かに潤みました。
「お父様。今まで、ありがとうございました」
「ああ。……幸せになりなさい」
娘は父に頼らずにくるりと回って、手を取ったまま、花婿の元に歩み寄りました。
「ビスカス」
「はい」
領主様は踊りの続きとしてでは無く、向かい合って頭を下げて、ローゼルをビスカスの方に軽く押しやりました。
「ローゼルを、宜しく頼む」
「……はい。この命に代えましても」
そして花婿は花嫁の手を取ると、晴れやかに微笑み合って、広間に一歩を踏み出しました。