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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第11章 器用さの問題
二人は、一言も言葉を交わしませんでした。
ほんの数ヶ月前にも、二人はここで一緒に踊りました。ローゼルが従兄弟のリアンと婚約する事になり、ビスカスが親族として踊りの相手を務めたのです。
ローゼルが兄弟ではなく未だ独り身であるビスカスと踊ることに、奥方様は難色を示しました。ビスカスは掌と腕以外はどこにも触れないという約束で奥方様を納得させて、ローゼルと共に踊ったのです。
ビスカスは、踊りの終わりにローゼルの手首に付けられた痣に気が付くまでは、その約束を守りました。痣は、リアンの手荒な扱いで付いたものでした。
それがきっかけとなってローゼルとリアンの婚約は流れ、今日ビスカスと正式に結ばれる事になったのです。
その時と違って、今日の踊りは腕だけでなく体も時々触れています。しかし、この地の踊りに付き物の、色めいた雰囲気は有りません。
艶っぽさは感じられませんでしたが、視線にも仕草にもお互いへの愛おしさは見て取れますし、爪先から髪の先に至るまで、相手への繊細な思い遣りに溢れています。
元々肉体的な相性を確かめる為の踊りは、今は二人が一つの魂を二つに分け合っているかの様な、神聖な静けさに満ちておりました。
踊っている二人の心中には、幾つもの思い出が過りました。
ビスカスの修行時代を除けば、二人はローゼルが生まれた時から、ずっと一緒に育ったのです。小さな頃から今日までは、様々な事が有りました。
気が付けば常に傍らに居た相手と、これからは自らの意志で寄り添って、共に歩むのです。
二人はふと目を合わせ、どちらからともなく微笑みました。
『私はこの命の有る限り、貴女を敬い、貴女に誠実に仕え、私の全てで貴女を愛する事を誓います』
『私は貴男を愛し、貴男を慈しみ、貴男を敬い、生涯共に歩む事を誓います』
誓いの言葉がそのまま踊りになったかの様な踊りは、緩やかに結びに向かいました。
ローゼルはビスカスの指先にいざなわれ、優美な花片が柔らかい風に舞う様にくるくると回り、愛する伴侶の腕の中にすとんと収まって、固く抱き締め合いました。