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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第3章 オレンジの問題

     *     *     *

「で、式はいつになるんだ?」
「あー。そりゃ、まだ分かんねーんです」

 洗濯屋に服を預け、泊まる予定にしていた店に違約金を払い終えたビスカスは、サクナの屋敷を訪ねていました。
 今後もこの地に留まる事になった旨の挨拶とローゼルとの結婚の報告、聞きたかった事の相談等が一段落して、サクナとお茶を飲みながら、のんびり話をしています。

「従兄弟たぁ、雪解け頃に式を挙げる予定だったんだろ?それじゃ駄目なのか」

 ビスカスは困った様に笑って、お茶を一口飲みました。

「や……そーいう訳にゃあ……御従兄弟様のお気持ちやなんかが、落ち着いてからって事みてぇで」
「そうか。……そうだよな」

 ローゼルの従兄弟は、婚約式の日に破談を申し出られたのです。それなりに傷付いてもいるでしょう。それを無視して式を挙げる訳にはいかないというのも分かります。自分も似た様な事をした記憶が有るサクナには、少々耳の痛い話で有りました。

「まあ、俺ぁ、式なんざどんなでも……なんなら今のままでも充分なんですが、お嬢様が」
「ん?」

 ビスカスはお茶のカップを両手で包んで、はにかむ様に呟きました。

「……お嬢様が着飾って皆さんに祝われる所は、見てみてぇもんですねー」
「ローゼルは、後継者になんだろ?式をやらねぇって事は、無ぇだろうよ」
「そうですね……」

 自分がしゃしゃり出て異議申し立てをしなければ、ローゼルは春前に誰からも祝福される式を挙げていた事でしょう。それを思うと、ビスカスの胸は微かに痛みました。けれど、あのまま従兄弟と結ばれたとしたら、ローゼルは大輪の薔薇の花の様なローゼルのままでは無くなって居たかもしれないのです。

「失礼致します。お茶の差し替えに参りました」
「ああ、済まねぇな」

 新しいお茶を運んで来た家令のクロウは一礼し、二人の前に置かれたカップを新しい物に取り替えました。

「……この度は、誠にお目出度う御座います」

 クロウはお茶を給仕しながら、ビスカスへの祝いの言葉を呟く様に口にしました。

「ありがとうごぜぇやす。……色々お世話になっちまいやしたが、こういう事になりやした。雨降って地固まる、って奴ですかね」
「それは、何よりで御座います」

 クロウは僅かに微笑んで、ビスカスの前にお茶を置きました。
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