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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第3章 オレンジの問題

「……あれ?」

 新しいお茶を置かれたビスカスは、首を捻りました。お茶から、なんとなく懐かしい様な香りがしたからです。気のせいか、と思ってカップを持とうとした所で、サクナがにやっと笑いました。

「分かる訳無ぇと思ったが、何か感じたのか。鼻も猿並みだな」
「え、もしかして」

 ビスカスはローゼル付きを離れて時間を持て余して居た間、ここでサクナに指導を受けて、オレンジの干し果物を作りました。このお茶の香りを嗅いで、その時自分が作った物を使ったのではと思ったのです。
 しかし、作った物は、自分では飲んでおりません。以前のものを飲まなかったのですから、これを飲んでも同じかどうか、ビスカスには分からないでしょう。

「そりゃ、お前の作った奴じゃあ無ぇぞ」

 ビスカスが眉を寄せて考えていると、サクナが口を挟みました。

「作って置いてったそのものじゃ無くて、お前の書いた配合を元に、新しく俺が作ってみた茶だ。似ちゃいるけどな、やっぱり違う」
「……サクナ様。お願ぇが有るんですが」

 ビスカスは懐から袋を取り出して、サクナの前に置きました。

「ん?何だ?…………金?」
「図々しいお願いだと分かっちゃあいるんですが、俺が作らせて頂いた干し果物を、俺に譲っちゃ頂けやせんか」
「え」
「その……こんな事になったもんで、お嬢様に差し上げてぇと思っちまいやして……良い様になすって下せえって申し上げたのに、勝手なんですが……」

 この地では、男性が干し果物を作って、愛する女性に贈る風習が有ります。作った時のビスカスには何の用も無かった干し果物でしたが、今になって、贈りたい相手が現れました。その為、サクナに先日譲った物を逆に譲って貰えないかと、頼みに来たのです。
 ビスカスの頼みを聞いたサクナは少しの間無言になって、がばっと頭を下げました。

「……申し訳無え!」
「へ?」
「実は、あれぁ、もう手元に無ぇんだ」
「え」
「スグリが帰って来たら、一緒に飲もうと思ってたんだが……あいつを物凄ぇ気に入ってくれて、俺達よりも必要そうな客が居たから、譲っちまったんだよ」
「あー……左様でしたか……」

 ビスカスは、がっかりしました。
 がっかりするのは勝手すぎるという事は、分かってはおりました。あれはサクナが買い取ったのですから、その後サクナがそれをどうしようが、サクナの自由なのです。
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