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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第3章 オレンジの問題
「いい香り……これがお土産?」
「へい。お飲みになりますか?」
「ええ、頂くわ。ありがと……うっ!?」

 良い香りと優しい抱擁で目覚めて、ほわほわと幸せな気持ちで居たローゼルは、目にした光景に固まりました。
 ビスカスが、お茶を淹れようとしていたのです。

「ビスカスっ!!駄目っ!!危ないわよ、お止めなさい!!」
「大丈夫ですよー」

 ビスカスは苦笑しながら、ポットに目をやりました。持ちやすそうなポットの持ち手に慌てずに手を掛けて、握ってみて首を傾げて一旦離して持ち直し、ゆっくりと持ち上げて慎重に傾け、少しずつカップに注ぎました。

「どうぞ、お召し上がり下せえ」
「……お前……凄いわ……!!」

 息詰まる様な気持ちでじっと見詰めていたローゼルは、ほっと息を吐いて目を輝かせました。
 ビスカスが何も壊さず、零さず、火傷もしないでお茶を淹れたのです。
 所作は決して美しくは無く、カップに注がれたお茶の量はかなり少な目でしたが、ビスカスの手で安全にお茶が供されただけで、十二分に驚異的でした。

「やー、こんなんで誉めて頂いて、申し訳ありやせん」
「驚いたわ!どうやって出来る様になった……の」

 ローゼルはお茶を飲もうとしてカップを自分に近付けましたが、はっとした顔になり、カップを一度皿の上に戻しました。

「お嬢様?」
「……ああ、良かった!」

 ローゼルは慌ててブランケットをめくって長椅子の上を検分していましたが、ほっとした声を上げました。

「びっくりしたわ……そうよね、このお茶は、サクナ様のお茶よね」
「……そうですが……そりゃあ、何ですか?」
「あ」

 訝しげなビスカスの問い掛けに、ローゼルは赤くなりました。

「……お前の作った、オレンジよ……」
「……へっ?」

 見付けた小瓶を手に取って見せながら、ローゼルは小瓶を子どもの様に抱いて寝ていた事が恥ずかしくて、口籠もりました。

「サクナ様に頂いたの。試飲した後、凄く気に入ったみたいだからお前にやる、って」
「え……」

 ビスカスが目も口も全開にして何も言ってくれないのを見て、ローゼルはおずおずと口を開きました。

「お前が作ったって教えて貰ったのは、そのずっと後だったのだけど……これ、私が持っていても、良い?」

 初めて作った物なのです。ビスカスが自分で記念に持って置きたいかもしれません。
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