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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第3章 オレンジの問題
「……そんな不出来な物で、良いんですかい?……」

 ビスカスは良いとも悪いとも言わず、ぼそぼそと呟きました。

「不出来だから良いんじゃないの」
「へ?」
「だって誰が作ったのか、見ただけで分かるもの」
「お嬢様……」
「ねえ、私が持っていては駄目?お前にとっても、頑張って作った初めての物だから、大事だというのは、分かっているけど……譲って貰った時物凄く嬉しくて、飲まないで取って置くって、決めてしまったの」
「…………それ、ちょっと貸して頂けやせんか?」

 ビスカスは、じっと見ていたローゼルの手の中の小瓶を指差しました。

「……はい。」

 ローゼルは言葉少なに小瓶を渡しました。貸してくれとは言われましたが、実質、返したも同然です。貰ってからずっと、御守りの様に大事にしていたオレンジです。それが手許から無くなる事を、ローゼルは心から残念に思いました。

「ほんっとに、不出来ですねー……」

 小瓶を受け取ったビスカスは情けなさそうな顔をして、瓶の中身をしげしげと眺めました。

「そうでも無いわよ」
「……お嬢様だって、さっき、そう仰ったでしょ」
「あれは、そういう意味じゃ無いわよ!それに、ちゃんと出来てるじゃないの。普通に見たら不出来でしょうけど、お前にしては上出来よ」

 ローゼルはビスカスを励まそうとして、逆に塩を擦り込みました。

「……ありがとーごぜーやす……でも、お気遣い御無用でごぜーやす……」

 情けない顔のビスカスは、深々と溜め息を吐きました。

「これ、貰ってやって頂けやせんか」
「……え?」

 戻したものを貰ってくれと言われた意味が一瞬分からず、ローゼルは目を丸くしました。

「こんな不出来なもんしか捧げられねぇ俺で申し訳無ぇんですけど、お嬢様の事を考えながら作ったもんなんで……持ってて頂けたら、不器用冥利に尽きまさぁね」
「……本当?」
「へ?」
「私の事考えて作ったって、本当?」

 小瓶を受け取って握り締めたローゼルは、小さい声で聞きました。

「いや、その……最初っから、差し上げられるとか大それた事を考えてた訳じゃなくってですねー……香辛料やら混ぜるときに加減がよく分からねーっつったらですね、サクナ様が『誰かを思い浮かべて、そいつに合わせて混ぜてみろ』って……わわっ」

 ローゼルは、何も言わずにぎゅっとビスカスに抱き付きました。
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