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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第4章 痛みの問題
「……いや?」
「や!嫌じゃねぇです!嫌なんかじゃねーんですけど……追い付けやせん……」

 ビスカスはローゼルの服のボタンに手を掛けましたが、一つ外すのにも、もたもたと手こずりました。

「大丈夫よ?自分の服は、自分で脱ぐから」
「女の服は、装飾やらなんやらが多いんですよねー。女じゃなくて良かったですよ、自分一人で脱ぎ着できねー気がしやす」
「ふふ。お茶も淹れられる様になったんのだもの。じき慣れるわよ……あら」

 ぼやくビスカスにくすくす笑っていたローゼルは、外していたボタンの辺りをじっと見ました。

「気が付かなかったわ」
「へ?何ですかい?……わっ」

 ローゼルはビスカスの肩の辺りを、細い指ですっと撫でました。

「これ、私が十五の時の傷?」
「あー……そうでしたかねー」
「あの頃は、ご免なさい。何かと言うとお前に八つ当たりして……そのせいで、こんな怪我を」

 それは、ビスカスが前の護衛から仕事を完全に引き継いで、しばらくした頃の事でした。
 まだ大人の社交の世界に加わっていないローゼルの噂を聞き付け妄執を募らせた男が、ローゼルを我が物にしようとしたのです。
 その頃、母を亡くした辛さや思春期や新しい立場で接してくるビスカスへの戸惑いで、ローゼルはビスカスに反抗しておりました。何かと言うとビスカスに当たり散らしていたローゼルは、ビスカスの言う事を聞かずに振る舞い、結果的にこの怪我をさせてしまったのです。

「とんでもねーです」

 ビスカスは、傷を撫でながら俯いてしまったローゼルの髪に口づけました。

「お嬢様が一番お淋しかった頃でしたから、俺に癇癪を起こしなさることで少しでも紛れんだったら、どんどん突っ掛かって下すって構わねぇって思ってましたよ」
「お前に甘えてたのね、私」
「う」

 ローゼルは肩の傷に敬意と感謝を込めて口づけ、腕の辺りに触れました。

「こっちは、二十の時ね」
「お嬢様の見合い話が増え始めた頃でしたかねー。変な奴等が沸いて来て……ご結婚が決まったらお役御免になんだなーって、覚悟を決めた頃でさあ」
「もう一生お役御免になんてしてあげないから、今度はそれを覚悟なさいね?……あ、これ」

 腹の辺りにも、新しい傷が有りました。

「これだけは、私の為の傷じゃないのね」
「あー…………そうですかねー……」

 ビスカスは、曖昧に答えました。
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