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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第5章 慣れの問題

「公の時とか誰かと居るときは仕方ないけれど、二人きりの時にそんな風に呼ばれるのは、嫌だわ。可愛げの欠片も無いじゃないの」
「そーですかい?スグリ様もサクナ様にゃあ、スグリって呼ばれてますじゃねーですか」

 ぷるんとした美味しそうな魅惑の唇に呼び名の最有力候補について不満そうに呟かれ、ビスカスは困惑しました。

「スグリ様は、『スグリ』って名前が『すぐり』って、既に可愛らしいじゃないの。ローゼルなんて、間延びしてるもの。『ろー』『ぜ』『る』よ、『ろーーぜる』」

(賢い癖に何言ってんだ、この食べちまいてぇ程クッソ可愛らしい俺のお嬢様は)

 ビスカスはローゼルを抱き締めて、スモモ色の唇に口づけしまくりたくなりました。しかし、ローゼルが自分の嫁になったとは言え、今それをしたら「まだ話が途中!」と容赦の無い平手打ちを喰らうでしょう。
 女ってな愛おし面倒臭ぇねと思いながら、ビスカスは次の候補を口にしました。

「……ロゼ?」

「嫌よ。お兄様達みたいじゃないの」

「……あー……」

 自分も薄々思っていた事を指摘され、ビスカスは返す言葉が有りません。
 それに、ローゼルの兄達と父だけならまだしも、あの従兄弟のお坊ちゃんも、そう呼んでいたのです。それを思い出させるので、実は「ロゼ」とはあまり呼びたく有りませんでした。

「じゃ、ローゼル様?」
「絶対嫌」

 ビスカスがそう言うのを聞いた途端、ローゼルは反射的に答えました。
 様付けされると、リアンとの見合いの話が進んでいた頃ビスカスに「ローゼル様」と呼ばれた時の、氷の棘が胸に突き刺さる様な気持ちが思い出されます。ローゼル自身も意外でしたが、ビスカスからの様付けは出来れば二度と聞きたく有りませんでした。

「じゃあ、ローゼルちゃんってなどーです?」

 ビスカスが軽い気持ちで言ってみると、暴君のご機嫌が荒れました。

「……お前、ふざけてるの?それか、馬鹿なの?それとも、本気でそう呼びたいと思っているの?」
「……すいやせーん……言ってみただけなんでさぁ……」

 言われても仕方ない事を言われ、向けられても仕方ない冷ややかな目を向けられて、ビスカスは縮こまりました。
 これで、四つの呼び名が却下されました。大分出尽くした感が有りますが、ビスカスにはあと一つだけ、ローゼルの呼び方の心当たりが有りました。
 
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