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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第5章 慣れの問題
ビスカスがローゼルに初めて会ったのは、ローゼルがこの世に生まれ落ちる前です。
ビスカスは、ローゼルの母が身籠もった事が判明してしばらくした頃、この領主家に引き取られました。
引き取られて一年経たずにローゼルが生まれ、その時からビスカスはローゼルの世話をする様になった……のですが、その前から奥様に「赤ちゃんのご機嫌が悪いみたい」と言われるとお腹に話し掛けたりお腹を撫でたりと世話をしていたので、産まれる前から面倒を見てきた様な物です。
そんな奥様とビスカスには、二人しか使わないローゼルの呼び名が有りました。幼名と言うほどの物ではなく徒名の様な物で、父親の領主様も二人の兄達も、その名を呼ぶことは有りませんでした。
領主様は、赤ちゃん言葉や幼児言葉を使うと癖になり、将来人の上に立つ者や公の立場で仕事をする者には宜しく無いとの理由で、二人の息子には小さい頃から大人と同じ言葉を使う様に、厳しく躾けて居たのです。
(……ご領主様ぁ、全く正しくてらっしゃいやしたねー……)
ビスカスはローゼルに五つ目の呼び名を言ってみるよう迫られながら、今更考えても仕方のない事を考えました。
(……滅茶苦茶すっげえ恥ずかしいです……三十男が、どの面下げて、そんな……っ!!)
その名を最後に口にしたのは、もう十年も前の事です。当時の二十歳そこそこのビスカスならまだしも、現在のもうすぐ三十になろうというビスカスは、その呼び方を思い出して頭の中で言ってみただけで、恥ずかしさで激しく身悶えしました。
「ビスカス?」
「へえ……なんでしょう、お……っ」
いつもの「なんでしょう、お嬢様」を封じられたビスカスは、口をつぐんで葛藤しました。
「……呼び方、もう、お仕舞いなの……?」
「ぅぐっっ」
ふと見るとーーふと目をやってしまったら、ローゼルが少しだけ淋しげに、ビスカスの事を見詰めて居ます。
そんなやり取りをぼつぼつと繰り広げている間に二人は部屋まで帰り着いたので、ビスカスは無言で扉を開けて部屋に入ってローゼルを迎え入れて扉を閉めると、そのまま床にしゃがみ込みました。