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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題

「だいたい何なの、その鋏!?枝を切る鋏じゃない!」
「しーっ、お静かに、お嬢様。狙いが逸れます」
「ねらっ……」

 薔薇とは、いつから狙いを定めて切るものになったのでしょうか。
 ローゼルは思わず息を止め、ごくりと唾を飲み込みました。
 ビスカスの手には花切り鋏では無く、長い鋏が握られています。ビスカスはそれを震えそうなほど握り締めて、離れた場所から白薔薇を一本切ろうとしました。

「えいっ!……ありゃ?」

 掛け声と共に、刃と刃がスカッと何も噛まずに合わさって、持ち手同士が無駄にガチッとぶつかり合う音がしました。

「えい!えい?えい!?えい?!」
「……ビスカス。刃こぼれするわよ。」
「や、でも、もうちょっとで……えいっ!」

 じょきんと音がして、薔薇が一輪切れました。

「……薔薇の、生首ね……」
「……へえ……」

 花首から切れてしまって地面に落ちた白薔薇を、二人は無言で見下ろしました。

「……こりゃあ……タンム様にゃあ……」
「渡せないわよ。お貸しなさい」

 ローゼルはビスカスの手から鋏を危なげなく取り上げて、器用にしゃきんと一枝を切りました。

「最初っから、こうしたら良かったのよ」
「申し訳ごぜーやせん……面目ねぇです……」

 ビスカスは水揚げに失敗した薔薇の様にしゅんと萎れました。

「大体、鋏が大きすぎるわ。どうしてこれにしたの?」
「やー……普通の鋏じゃ棘が刺さんじゃねーかなー?って」

 ビスカスはローゼルが切った白薔薇の枝を拾うと、茎を眺めて上から下まで棘を全て折り取りました。それをローゼルに差し出すと、入れ替わりに鋏を渡されました。

「これ片付けときなさい。怪我しない様にね」
「ご心配、ありがとうごぜぇやす……」
「心配してる訳じゃ無いわ。怪我なんかされたら面倒だからよ」
「すいやせん……」

 ローゼルは屈んで花首から切れてしまった白薔薇を拾い、それをビスカスに差し出しました。

「……あげるわ。要らないから」
「ありがとうごぜぇやす……」

 ローゼルはビスカスが広げた掌に、まだ雨水を含んで重たい柔らかな花片の白薔薇を乗せると、踵を返して館に戻って行きました。
 ビスカスはその足取りが来た時よりもしっかりしているのを見て薄く微笑んで、掌の薔薇を見詰めました。そしてそれを壊さぬ様に懐に仕舞うと、鋏を片付けに行きました。
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