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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題

(クッソ、どこお寄りになりゃあがったんだ)
寄りたい所が有るからという事だった様ですが、教室に通っているのはそれなりのお家のご婦人方かご令嬢方なので、歩いて遠出をする筈は無いのです。そもそも、ローゼルはビスカスと帰らなくても、一人で帰ってきた事は有りません。どこかの店に寄り道しても、最終的には皆でいずれかのお友達のお宅に立ち寄ってお喋りをしてお茶を飲み、送って頂くというのが常でした。
(どうせ菓子屋か糸屋だろ)
先生のお宅の表玄関から出ない方が近い店でお嬢様方が寄りたい様な店など、限られています。ビスカスはこの辺りでローゼルが寄りそうな店リストを頭の中から引っ張り出して、心当たりを順番に回りました。
四軒目に覗いた糸やリボンやボタンを扱う小間物の店の窓から、見憶えのあるご令嬢がちらっと見えた気がしました。
そこは、可愛らしい物やキラキラした物、上品な物に優雅な物に豪奢な物など、あらゆる夢の様に美しい小物が色とりどりに隅から隅までぎっしり詰まっており、女性であれば誰もがうっとり見蕩れながら、何時間でも居たくなる様な店でした。
その上、詰まっているだけでは飽き足らないのか、店の外側にまでその雰囲気が溢れ出しておりました。ビスカスにしてみれば入りにくい事この上ない、女性歓迎・男はお呼びじゃ有りません。……と店構えに書いて有りそうな、秘密の花園めいた店でした。
(ここかよ……菓子屋の方が百倍マシだぁね……)
菓子屋であれば菓子好きならば、男で有っても女で有っても、店側にとってはお客です。しかし、この手の小間物屋は、男が一人で立ち寄る様な店では有りません。入りにくいのは勿論の事、不審者めいて見えそうで、窓から中を覗くだけでもかなりの勇気が必要でした。
(……見えねぇっ……)
更に、窓辺にもひらひらしたリボンだのたっぷりした襞飾りだの光をちらちら反射しまくる飾りボタンだのがてんこ盛りに飾られておりましたので、ローゼルが中に居るかどうかは、外からは全く分かりませんでした。
(助けて下せぇ、奥様……!)
ビスカスは、天を仰ぎました。天にお住まいの奥様が助けて下さる訳は有りませんでしたが、この扉を開けて入って行く度胸だけでも頂きたいと思ったのです。
「……あ。」
奥様が、お聞き届け下さったのでしょうか。
ビスカスの祈りは、天に通じました。

