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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題
『あ?出来ねぇだ?そんなん知るかよ』

 ビスカスは、焦らず、感情に左右されず、ただ淡々と、道具を自分の体の一部の様に扱いながら、鍵穴の感触を探って行きました。その態度は、まるでここがローゼルの部屋で、立て籠もっているのを開けてくれと誰かに頼まれたかの様でした。

『出来るかどうかなんざ聞いてねぇよ。やれ。やるんだよ、それだけだ』

 耳にも目にも感じない僅かな抵抗を何度か潜った後、かちりと何かが嵌まって並びました。
 その感触がするや否や、ビスカスは取っ手を回して扉を静かに素早く開けました。


「……お嬢様!」

 ローゼルが長椅子に崩れていて、その傍らにこの家の主らしい恰幅の良い中年の男が居りました。

「なんだ、お前は!……っ?!」

 ビスカスは男が椅子からこちらに乗り出して立ち上がりかけた所を引き落として叩き伏せ、背中を強かに踏み付けました。

「お嬢様?!」

 椅子に伏せる様に丸くなっているローゼルの近くに寄ると、体が震えて居りました。尋常ではない、引きつる様な呼吸音も聞こえます。

(クソ、例の奴かよ……どんくらいこのまま放っとかれてんだ!?)

 ローゼルは奥様が亡くなった後も、こうなった事が有りました。

 初めてこれが起こった時、崩れ落ちそうになるローゼルを近くに居たビスカスが抱き止め、上のお兄様が領主様の指示で医者を呼びに行きました。それを見たとき全員が動転し、大変な病気になったかと思ったのですが、ローゼルは徐々に落ち着いて、医者が来る頃には大分普段に近くなっておりました。医者からは体の異変というよりは心の辛さで起こる事だろうと聞かされて、その日のように誰かが抱いてゆっくり息をするように促す事で収まる筈だと言われたのです。

 ローゼルを抱き起こしたビスカスは、はっとしました。ボタンが幾つか外れて千切られて、着衣が乱れておりました。それは男の手によるものか、息苦しさで自分でしたものなのかは、はっきりとは分かりませんでした。
 ビスカスは辺りを見回すと、一番手近なテーブルクロスを引っ剥がしてローゼルを包みました。

「お嬢様?俺ですよ、分かりますか?」
「……」

 ローゼルは声も出さず目も伏せたままでしたが、ビスカスの服をぎゅっと掴みました。
 ビスカスはローゼルの乱れた息を落ち着かせる為に、背中をゆっくり規則的に、柔らかく叩き始めました。
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