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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題
* * *
「へーい?」
タンムの去った部屋に、また扉を叩く音がしました。
また横になってごろごろと暇を持て余していたビスカスは、食事だろうかと思って間延びした返事を致しました。
「お早う。食事よ」
「お嬢様っ!?……つっ」
「大丈夫っ?!」
ビスカスは飛び起きかけて、小さく声を上げました。顔を顰めたビスカスを見たローゼルは、持っていた盆を取り落としそうになりました。
「……痛むの?」
「や、平気です。変な風に曲げちまったもんで」
傍らのテーブルに盆を置いたローゼルは、ふうっと息を吐いて、近くの椅子に座りました。
「スープと、果物よ」
「ありがとーごぜぇやす……」
「……何ぼーっと見てるのよ」
「……や……」
ローゼルを二日ぶりに見たビスカスは、胸が一杯になっておりました。
長年見慣れた自分の狭くて乱雑でむさ苦しい部屋が、ローゼルが居るだけでどんな豪奢な王宮よりも高貴で輝く様な光に満ちた場所に思えます。しばらく呆けた様に見詰めていましたが、我に返ってはっとしました。
「お嬢様っ!?駄目です、お帰りになって下せえ!!」
「駄目?……帰れ?」
あたふたとした言葉を聞いたローゼルは、眉をぴくりと動かしました。
「お前、誰に、物を言っているの?」
「ひっ!」
天上から降り注ぐ妙なる音楽の様に麗しく心地良いのに、冷たく傲慢で凍り付く様な響きを孕んだローゼルの言葉に、ビスカスは怯みました。
しかし、ここに居る事は、ローゼルの為にならないのです。大人しく引き下がる訳には参りません。
「や、駄目ですよ!駄目に決まってんでしょうが!」
「どうしてよ!」
「そりゃ、お嬢様みてーな方が、こんっなとこに居らっしゃっちゃあ」
「何よ。別に、汚く無いじゃないの。多少狭くてごちゃごちゃしてるけど」
「違っ」
ビスカスは、あんな事があったばかりなのに男の部屋に一人で出向いて来るという、ローゼルの警戒心の無さを指摘したかったのです。しかし、疑う事を知らない純粋で無垢なローゼルに、そんな事をそのまま伝えられるでしょうか。
本音を言えば、ローゼルに帰って欲しくは有りません。むしろ、永遠に見ていたい位です。けれど、ここはどう見てもローゼルが居るのに相応しい場所では有りません。
本音と常識の板挟みになって、ビスカスは、悶えました。