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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題
「美味しい?」
「……へい。すげぇ美味しゅう御座います、有り難う御座います」
ビスカスはくすぐったさが過ぎて、逆に神妙に答えました。
「そう。良かったわ」
ローゼルは残り少なくなったスープを匙で掬いながら、先程言っていた事をまた口にしました。
「怪我なんかされたら、困るわ。迷惑よ」
「へい。すいやせん」
「お前、私の護衛でしょう?怪我したら護衛出来ないじゃないの」
「へい、その通りで」
「私、お前みたいに、おじさんじゃないのよ」
「へ」
またもや言われたおじさんと言う単語が、ビスカスの胸に突き刺さりました。まだ二十歳を越えたばかりなのですが、思春期の娘にとって二十歳過ぎの男は、やっぱり既におじさんなのでしょうか。
「私、まだ若いのよ。これから素敵な殿方に恋をして、愛されて、求婚されて、結婚して、子どもを産んで、」
ビスカスの傷心を知らぬローゼルは、スープの最後の一口を器用に掬って差し出しながら、ぶつぶつと呟きました。
「……その子が大きくなって結婚して、孫が産まれても、まだまだ、生きるつもりなんだから……」
「へい……あ。そいつぁ自分で食べられますんで」
ローゼルがスープ皿をよけて果物皿に手を伸ばすのを見て、ビスカスは慌てて止めました。果物皿には、さくらんぼが入っています。いくらビスカスの左手が不器用でも、さくらんぼを口に入れる事位は出来るでしょう。
ローゼルは、果物皿をビスカスの前に置きました。果物を食べるのは手伝わなくても良くなりましたが、帰る気は無さそうです。そのまま、話を続けました。
「だから、怪我なんかしてる場合じゃ無くってよ。途中で仕事を放り出したりしたら、許さないんだから」
「申し訳ありやせん。気をつけやす」
ビスカスの怪我は、ローゼルを守った結果です。よく考えればローゼルがビスカスに謝る方が、理には適って居る筈です。なのに二人共そんな風には、ちらとも考えませんでした。
ビスカスは少し迷った末に、さくらんぼを一つだけ摘みました。皿には山と盛られていましたが、噴水でした様に野蛮な食べ方をする事は、ローゼルの前では躊躇われたのです。
「随分、沢山有りやすねー。お嬢様も、いかがです?」
少年の売っていた物とは色艶も大きさも段違いの高級そうなさくらんぼの乗った皿を、ビスカスはローゼルの方に少しだけ押しやりました。