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初めて女を抱くらしい私の護衛に甘やかされ過ぎて困っています
第6章 仲直りの問題
「……ビスカス?」
「何ですかい?」
「私、これ、食べても良いのかしら」
「もちろんでさあ。お腹一杯ですか?美味しいですよ」
さくらんぼを一個食べ終えて二個目を摘みながら、ビスカスは軽く言いました。
「美味しいの?……どうしよう」
「……え?」
「私、これを食べて美味しいって思っても、良いのかしら」
ビスカスはそれを聞いて、平手で頬を打たれた様に感じました。
「そりゃ、良いに決まってまさぁね」
ビスカスはちょっと考えて、返事を付け加えました。
「お嬢様が美味しく召し上がって下さったら、これを用意した厨房の奴らも、売った果物屋も、作った奴らも、俺も、ご家族の皆さんも、みんな喜びまさあ」
「……みんな、喜ぶ?」
「ええ、みんな、です。俺も、御相伴出来たら、すげー嬉しいです」
「嬉しいの?」
「へい。嬉しいじゃなくて、すげー嬉しい、です。」
「……私も、時々なら、嬉しかったり、楽しかったり、笑ってしまったりしても、良い?」
ぽつりと呟くローゼルを、ビスカスは抱き締めたくなりました。
しかしそんな事はおくびにも出さぬ様に、ローゼルの方を見ず顔色も変えずにさくらんぼを摘みながら、のほほんとした口調で言いました。
「当たり前でさぁね。時々なんてケチ臭ぇ事言わねーで、いっつもお嬢様が笑ってらしたら、みんなつられてニコニコしちまって、さぞかし楽しくなるでしょうねー」
「みんな、楽しい?」
「勿論でさあ。お嬢様ぁ俺達みんなにとっての、お日様みてーなもんですからねー」
「……薔薇が、」
ビスカスは、怖がらせない様に逃げ出さない様にそうっと伸ばした掌に、小鳥の様な震えと温もりが、微かに触れた気がしました。
「……薔薇が、綺麗なの。綺麗だなって思ってしまうの。……庭の薔薇を見に行くと、綺麗で、良い匂いで……でも……」
(でも、奥様はもう居ねえ)
ローゼルが嬉しい事も楽しい事も美味しい物を食べたときも薔薇が綺麗でいい香りな時も、一番に聞いて我が事の様に喜んで下さった奥様は、もう居ないのです。
ローゼルの食が細くなり、癇癪が激しくなり、部屋に籠もり、庭にさえ姿を見せなくなった原因は、ビスカスが思った通り、全て同じ事でした。
「良いに決まってますよ、リュリュ。」
ビスカスはローゼルを見て、心の底からにっこりと、全力で笑いました。