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セイドレイ【完結】
第12章 価値

東南アジアに買春旅行。
亜美には到底、想像もつかない世界だ。
四期当選を果たしている市議会議員。
しかも、教育関連に力を入れているというそんな人物が、東南アジアで少女を買い、そして娘の同級生を金で買う──。
「驚いたかい?まぁ無理もないか。だがね、これから君が相手をするのは、みなこういう世界の住人だ。ある意味不幸な奴らなんだよ」
煙草を吹かし、遠い目をする新堂。
「…おっと。君の前で『不幸だ』なんて言うべきじゃないな。失礼。ほかになにか聞きたいことはあるかい?」
「あの…これは…いつまで続くんでしょうか?」
「…いい質問だ。今のところ、それは私にも分からん。君次第だよ」
「私…次第…?」
「そう、君次第。会員からは年会費という形で先に金を取ってある。来年以降も更新してもらえるかどうかは君のがんばりにかかってるんだよ。もちろん、私もできるかぎり裏で手を回すがね。客商売はリピーターが基本だ。君のサービスが気に入れば、きっと繁盛するさ」
そこだけ聞けば真っ当なビジネスの理念に聞こえるが、これは闇の売春ビジネスの話なのだ。
狂っている──。
亜美はあらためてそう感じていた。
「世の中にはね、いくら金があっても満たされない人間がいるんだよ。自分の欲望を満たそうと思うと、法に触れてしまう人間がいたりね。可哀想とは思わんかね?君はそういう奴らにほんのちょっとお手伝いしてやるんだ。それがまた新しい金を生むんだよ」
そして、新堂が煙草の火を消した。
「とにかく、君は余計なことは考えなくていい。いつも通りにしてくれたまえ。まだ自分の魅力を知らないんだろう?そういうことだ。大丈夫、心配はいらない」
大丈夫──。
一体なにが大丈夫だというのか。
「荒垣は明日の夜、ここへ来ることになっている。緊張するだろうが、よろしく頼むよ。じゃあ私はそろそろ──」
「あ、あのっ…もうひとつだけ」
席を立つ新堂に、亜美は最後の質問をする。
「…何かね?」
「あなたは…新堂さんは、私を…抱かないんですか?」
亜美のその言葉に、新堂は目を丸くして驚く。
「──ははっ!いやぁたまげたよ。そうか。そうだねぇ…クククッ」
「……?」
「…私は、一番好きなものは最後に残しておくタイプなんだ、とだけ言っておくとしよう」
そう言い残し、新堂は地下室を後にした。

