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セイドレイ【完結】
第12章 価値
「──いやぁ、良いものを見せてもらった。初めてにしては上出来だよ。さすがだねぇ」
荒垣が去ったあと、新堂が気のない拍手をしながら地下室へと入ってくる。
その後ろには、雅彦の姿もあった。
ふたりして、モニター室で一部始終を監視していたのだろう。
「荒垣の奴、早速次の予約をして帰ったよ。もう君のカラダにメロメロ…って感じだな。なぁ?雅彦よ」
「ああ、そうだな…。案外ちょろいもんだ」
3人の間に、なんともいえない空気が流れる。
「もっと喜んでいいんだよ。君は自分のやるべきことをしっかりとこなしたんだ。それでね、これは大したもんじゃないんだが──」
新堂はそう言うと、なにを思ったか二つに折られた "千円札" を亜美に差し出したのだ。
「え…?こ、これは…?」
思わず顔をしかめる亜美。
「たったこんだけ、と思ったかい?すまんね。いやいや、雅彦には反対されたんだがね。君もタダ働きさせられてると思うとやり甲斐がないだろう?ほんの気持ちだよ」
「で、でも…──」
亜美は雅彦に視線を送る。
「──受け取っておきなさい。こいつの言うことは聞いとくもんだ。今までどおり、必要なものはワシが買ってやる。だからその金はお前が好きに使うといい」
「女子高生のお小遣いにしてはちょっと少ないがな。クククッ…」
受け取りを躊躇する亜美だったが、新堂はテーブルの上にその千円札を置いた。
どういう風の吹き回しだろうか。
亜美が必要なものはすべて雅彦から与えられてはいたのものの、ここへ来る前に持っていた現金や両親の遺産関係もすべて雅彦が管理しており、現実を持たされることはこれまで一切なかったからだ。
千円──。
それは、亜美がさせられていることの対価としてはあまりに不当な金額ではあるが、そもそも金額の問題ではない。
(やっぱりこの人…よく分からない──)
「初めて自分で金を稼いだ気分はどうかね?今日は私は気分がいいよ。ククッ…。では、良い夢を────」
そう言い残し、新堂は地下室から去っていった。
微妙な空気の中、残された雅彦と亜美のふたり。
さきに沈黙を破ったのは、雅彦だった。
「──財布は持っていたよな?」
とぼけた質問だと、亜美は思った。
「はい。持ってます」
「そうか…────」