この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第13章 独りぼっち
「せ、先生、あのっ──」
亜美はそう言いかけて、また財布の中からクシャクシャになった三千円取り出し、手に握りしめた。
「──こ、これ…私のお金なんです。私が…カラダを売って稼いだお金です。だっ、だからっ…私が自由に使って…いいんです」
「た、高崎っ!?お前、なにを言って──」
「こっ…これから、これからもっと稼ぐんです。だから、でも…スマホは一番安いのでいいんですっ…」
支離滅裂な亜美の主張に、本山は首をかしげる。
「よう分からんが…まぁいい。先生が知りたいのはな?お前がスマホでなにをするつもりなんだ、ってことだ。まさか、今さら友だちとメッセージのやり取りがしたいわけじゃないだろう?」
「せっ、先生にはっ…ぜったい…ぜったい迷惑かけません。これからなにがあっても、私はっ…先生を守り、ます……」
「俺を守る…?」
「はいっ…たとえどんなことになっても、先生にされたことだけは私っ…だれにも言いません。もちろん、いつまでもっ…私を好きにして…かまいません。だ、だからっ──」
本山はますますわけが分からなくなる。
亜美がスマホでなにかをしようとしていることは間違いないとして、"本山のことだけは誰にも言わない" というのが、妙に引っかかるのだ。
それはすなわち、"本山以外の誰か" のことは、他言するつもりがある──と受け取ることもできる。
そもそも、亜美が意図的にスマホ等の通信機器を持たされていないのだろうということは、本山も薄々勘づいていた。
外部との接触を遠ざけ亜美を孤立させるためには、それが一番効果的だからだ。
連絡先を交換することが挨拶代わりになっているこの時代、そのツールを持たないというだけで、他者との間に自然と距離ができる。
また、インターネットを介して余計な知恵をつけるのを防ぐ目的もあるだろう。
しかし本山にとってなにより重要なのは、この件には新堂が噛んでいる、ということ。
亜美にスマホを買い与えたとして、面倒なことに巻き込まれる可能性が高い。
やはりここは慎重になるべきでは──と、本山が考えていたそのとき──。
「──もし、スマホを買ってくれないなら…私、先生とのこと…新堂理事長にすべておはなし…します」
「お、おい!?ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
「だからっ、おねがいしますっ…!私にスマホを買ってくださいっ…!」