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セイドレイ【完結】
第14章 武田家の憂鬱

弟の慎二が引きこもりであることも手伝って、武田家の世襲は長男である健一の肩に重くのしかかっている。

雅彦の厳しい教育のもと、自由意思を持つことは許されず、ただ言われるがままに医者の道を志してきた健一。
同級生が恋に遊びとかまけている間も、ただひたすら勉強に打ち込んできた。

「──うちの病院、知ってるかもしれないけどあんま儲かってなくて。借金も減らない。俺らが食ってくくらいはなんとかなってるけど、継いだあとのことを考えると…ね。だから金持ちと結婚して資産を増やすのが手っ取り早い、ってわけ。親父もいつまで働けるか分かんないし、おまけに厄介なニートもいるしな」

「そういえば…慎二さんていつからあんな感じに…?」

「ん?あー、いつから引きこもりにって?あれは…本格的におかしくなったのは、医学部の受験に失敗してからかな。でも元々あいつは、俺なんかより全然出来がよくてさ」

「え…?そうなんですか?」

「うん。昔は見た目も…もうちょっとマシだったし。俺と違って天才肌系っていうかさ。なにやらせても器用で、あいつ小さい頃は神童とか言われてたんだぜ?今じゃ想像もつかんだろうけど。ただ──」

「──ただ?」

「ちょっと難しいところがあるっていうか、精神的に脆いとこがあって。うまくいかないことがあると塞ぎ込んだり、急に感情が爆発したり。ああ見えて、あいつプライドめっちゃ高いから。なんとなく分かるだろ?でも "母さん" はあいつのこと溺愛しててさ。俺よりもあいつに期待してたんだよ」

健一の口から語られる、この家の意外な過去──。
同じ屋根の下に暮らしていながら彼らのことをほとんど知らない亜美は、健一の言葉にじっと耳を傾ける。

「──で、そんなんだから受験1回失敗したくらいで引きこもりがちになって。それから母さんもちょっとおかしくなっちゃってさ。多分、あいつも母さんも、現実が受け入れられなかったんだろうな」

「お父様は…そのときどうしてたんですか?」

「親父?親父なんか…慎二の存在はなかったみたいに扱ってさ。失敗作、って思ってんだろ。そんで俺には、とにかくお前しかいないんだからしっかりしろって、ただその一点張り。親父にとって思いどおりにならない人間は、この家にはいらないんだよ」


(思い通りにならない…人間────)


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